内部告発をして会社を辞めることに
米系メーカー・マーケティング担当への転職に成功し、同時に本格的に英語の勉強を始めた。マーケティングだけにとどまらず、商品開発にも関わった。扱う機器の生産元はほぼ中国の深圳。中国人スタッフとのやりとりは英語中心で、英語の実力も上がっていった。入社して9年目の40歳のとき、競合他社からヘッドハンティングされた。氷愛さんがいた業界では、競合他社への転職は前例がなくご法度。裏切り者扱いされたが、転職先には自分の求めるものがあった。
「これまで中国をはじめとした対アジアが中心でしたが、対欧米や本社との仕事を増やして自分の幅を広げたかったのです。それが転職先では可能でした。悩みましたが、中国人スタッフから“給料や役職をあげる為に転職するのは当たり前”と励ましてもらい、救われました」
役職はセールスマネジャー。年収も1000万を超え、社内では個室が与えられた。順調に仕事をこなしていたが、社長の会社資金の使い込みが発覚し、部下からの不満が氷愛さんへ集まるようになった。
「内部告発をしましたが、本社が選んだのは付き合いの長い社長でした。負けてしまい、会社にいられなくなり辞めました」
8年勤めた管理職から一転、48歳で4度目の転職活動をすることになる。
ストレスで酒と出会い系アプリに浸かる日々
負けるとわかった時点から今後を見据えて転職活動をしていたが、次の会社が決まらないまま退職。ここから約1年半、無職が続く。なぜ次が決まらなかったのだろうか。
「私が働いた業界規模は小さく、価値も大きくない、ほかからみれば優秀な人材が少ないのです。働く業界自体を変えたかったけど、給料などの条件を下げることはしたくなかった。マーケティングだけでなく、営業、生産管理、人事など幅広くやってきたので、専門性がないと思われたことも原因です」
お互いの条件が合う企業はなかなかみつからなかった。貯蓄や失業保険でなんとか生活はしていけたが、働いてない期間は不安で仕方なかった。仕事一筋で家庭を顧みず、妻とは仮面夫婦状態。ローンを払い終えた自分の家には、もともと居場所がなかった。ストレスで酒の量が増え、たまたま出会い系アプリで知り合った外国人女性と過ごす時間も増えた。生活は荒れていった。
「そのとき自分の気持ちを感じ取ってくれるのは、その外国人女性だけでした。私はお酒を飲みすぎて周りと連絡がつかなくなることもあり、友人に迷惑をかけてばかりでした」
つらい時期だったが、転職に対する気持ちはしっかりと持っていた。条件を下げることは、「自分の価値を下げること」につながるのでそこだけは譲れなかったという。副業として不動産投資も始めていたため、銀行から資金を借りるには年収だけではなく、働く業界の属性も意識した。社長面接だけでも20社以上受け、ようやく条件が合う企業への転職に成功した。外資系のIT機器メーカーのマーケティングマネジャー。こだわっていたわけではないが、希望の条件を満たす企業は外資だけだった。