営業赤字365億円が822億円に拡大

ここ数年来、各社のスマホ決済サービス間で激しい淘汰が進んだ。その内実は、巨額の先行投資による消耗戦だ。2018年2月のソフトバンクグループが擁するPayPayの「100億円あげちゃうキャンペーン」がその“毒”の大元といっていいが、これを皮切りに、各社は大枚をはたいたキャンペーンを次々と遂行した。

その結果、PayPayのサービス運営を担うPayPay株式会社の2020年3月期決算は、「主に、ユーザー獲得と利用促進を目的とした大規模なキャンペーンを実施したことや、サービス利用可能店舗の拡大に引き続き積極的に取り組んだ」(決算短信)ことで、営業赤字を2018年度の365億5900万円から822億3400万円へと大きく拡大させた。

そのソフトバンクグループのZホールディングス(旧ヤフー)と経営統合するLINEは、主業務とする戦略事業の営業赤字665億5700万円と、前年の349億3100万円から約316億円増。2019年2月から「メルペイ」のサービスを開始したメルカリも、「楽天ペイ」の楽天ペイメントも同様だという。

オリガミは約259万円でメルカリにたたき売り

消耗戦はシビアである。一度始まったら自分の都合だけで土俵を降りられないし、ライバルが複数いるならなおさらだ。仮に他の1社に競り勝っても、ヘトヘトになった末に別の社が漁夫の利を得ることもある。これでは、何のための先行投資かわからなくなる。

ついていけなければ、脱落せざるを得ない。今年2月にはQRコード決済の草分けだったオリガミがメルカリに買収された。一時は企業価値400億円以上とはじき出されていたこのスタートアップ企業の、約259万円というたたき売り同然の買収額が話題を集めた。

この先も、さらなる先行投資は避けられまい。Zホールディングスの坂上亮介常務執行役員は、4月の日経新聞インタビューで、「(2018年秋から)最初の3年間はキャッシュレス決済の習慣化、ユーザーの獲得に集中すると議論してきた」「もう1年ぐらいはキャンペーンを含め、日本に習慣を根付かせたい」「次の3年で事業を成立する構造にしていく」と、消耗戦の継続に動じぬ姿勢を見せている。

これに伍してゆくには、まず加盟店の手数料の値上げが考えられるが、サービス還元制度修了と同時に7月からは国からの補助がなくなって、加盟店は消費税増税に加え、税金同様の手数料の負担をまともにかぶることになる。利益の薄い小売店などは、かえって赤字につながりかねない。来年9月まで手数料ゼロのPayPay、来年7月まで同じくゼロのauペイなどはまだまだ我慢を続けるようで、消耗戦であることにやはり変わりはない。

編集部註:初出時、Zホールディングスの坂上亮介氏の肩書を「社長」としていましたが、正しくは「常務執行役員」でした。訂正します。