今の仕事は「人生の集大成」

昨年11月に定年を迎え、再雇用された今も大きな木箱を抱えて変わらずホームに立ち続ける日々。小南は立ち売りの仕事を「人生の集大成」だと表現する。

撮影=鍋田広一

「休止期間はありましたが、立ち売りは2021年で100周年を迎えます。そして折尾駅周辺の再開発工事も2025年度に終わる予定で、新たな駅がオープンする。嘱託期間は65歳で終わりますが、この日まではやりたいですね」

20代から続けているフィットネスのおかげで、体はまだまだ動く。いくつまで働きたいか? との問いに「会社が許してくれるなら、70歳までやってみたい。レベルが下がらないうちは続けたいと思っています」とにっこり笑った。

60歳独身で1人暮らし。「不器用な性格やから、あんまりそういう機会がなかったですねえ」。仏具店時代に仏像の魅力にひかれ、京都の仏閣を年4回訪れることがライフワークになった。中でもお気に入りは瑠璃光院や秋に見る圓光寺。新型コロナウイルスの感染拡大で今年はまだ一度も行けていないが、いつもは休みの前日の夜にフェリーで出発し、兵庫県と淡路島に架かる明石海峡大橋を眺めながら船内でゆっくり過ごすのだという。

客先で塩をまかれながらも働き続け、家業や病院勤務と職を変えた小南は、50歳を超えて立ち売りという仕事にたどり着いた。今日も停車する電車にぺこりとお辞儀をし、「いってらっしゃい」「おかえりなさい」と乗客1人1人をやさしく見守っている。

どんな人にも人生の出番はやってくる。控えめでありながら99年の歴史を背負う小南の姿を見て、そんな言葉が浮かんだ。

連載ルポ「最年長社員」、第1シリーズは全5回です。5月1日から5日まで、5日連続で更新します。第2シリーズは6月に展開予定です。
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