この資金需要は「めぐみの雨」か「底なし沼」か
邦銀のビジネスモデルは「コロナ禍」が、起きる前までは行き詰まりを見せていた。企業向け融資の規模が縮小し、長引くゼロ金利で投資運用先もない。キャッシュレスが浸透し、AIやネットバンキングの進化もあって、メガバンクはATMや支店を削減して採用人数を絞り始めた。旧来型の企業融資や手数料収入、投資運用益以外の収益源をどこに見出すのか。メガバンクから地域金融機関まで、迫られていたビジネスモデルの転換に手詰まり状態にあったのは共通だ。
そこに降ってわいた「コロナ禍」による資金需要の急増は、金融機関にとっては「慈雨」、つまり「めぐみの雨」なのかもしれない。
だが今、起きている資金需要は、まるで「底なし沼」のようでもある。感染拡大の影響が見えない中、どれほどの資金が必要になるのかは誰にも分からない。資金需要のひっ迫感は、「コロナ禍」を始めとする不測の事態によるものなのか、もともと経営が行き詰まっていた、赤字体質の「ゾンビ企業」が破綻への足を速めたものなのか。
全ての資金需要に応じていたら金融機関本体の経営が危うくなる。「当座の資金繰り需要にはスピーディーな審査で応じなければならない。ただ、その資金需要がコロナの影響か、そうではないのかを短期間で見極められる『目利き力』が金融機関の経営を左右する」(地域金融機関首脳)。
「天下の悪法」と批判された中小企業金融円滑化法の復活
「目利き力」が問われる金融機関にとって、悩ましいのが「天下の悪法」とかつて批判された「中小企業金融円滑化法」の復活だ。
元本を含めた返済猶予や金利減免など貸付条件変更に、金融機関が柔軟に応じるよう求めた時限立法で、2008年のリーマン・ショック後、当時の亀井静香金融担当相の肝いりで2009年12月に施行された。2013年3月で終了したが、3月6日の麻生太郎財務相兼金融相の談話で復活が盛り込まれた。「モラトリアム法」とも呼ばれ、赤字体質の「『ゾンビ企業』の延命策」など批判されたいわくつきの法律だ。
だが今回は様相がまるで違う。ある地方財務局の幹部は言う。「われわれも金融機関も、今は地域の中小企業の中に入っていく『対話路線』ですから。『円滑化法』も積極的に活用していただきたい」。
実は金融円滑化法は、2013年3月の終了後も事実上は継続していた。運用した金融機関の、金融庁への報告義務が2019年3月末まであったためで、最後の1年間では、貸出条件変更などの申請は75万件、実行率は95%を超えた。