金融庁の遠藤俊英長官が打ち出す「対話強化」

今回の運用では、金融機関の負担が増した。金融庁は2018年に検査局を、2019年末には金融検査マニュアルをそれぞれ廃止。金融機関に融資先に対する「目利き力」を養ってもらい、融資先との「対話強化」とコンサルタント営業を促す狙いがあった。

その流れから今回は、融資条件の変更や返済猶予後の債務者区分の変更などで、金融機関側の裁量に任される部分が増えた。金融庁への報告は毎月と、3カ月に一度だった前回より増えている。

金融機関と企業の「対話強化」は、金融庁の遠藤俊英長官が一昨年の就任以降、鮮明に打ち出している方針だ。前任の森信親長官が「地方銀行の合併促進」の強硬路線で恐れられたのとは一変。森氏の側近をことごとく配置換えしてまず取り組んだのは、自ら積極的に地方へ出向く「対話路線」だった。

地方票の足固めをしておきたい菅官房長官の方針と一致

代表例が「ちいきん会」である。全国の金融機関職員と地方公務員、国家公務員ら若手を集め、地域の課題解決に向けてネットワークを築く場を提供しようという狙いで遠藤氏主導で旗揚げされ、2019年3月に東京で第1回を開催した。同年中に3回、開催された「ちいきん会」に遠藤氏は全て出席。同年12月末には広島県福山市で講演を行うなど、歴代長官に比べて地方行脚は際立って多かった。なぜか。

まず遠藤氏は「『地方愛』と『若者愛』が強い」(金融庁幹部)とされる。国際通貨基金(IMF)出向中に住んだ米ワシントンDCの良好な住環境を懐かしみ「子供の教育のため」と軽井沢に自宅を構え、今も片道2時間の新幹線通勤をこなす。故郷・山梨県に似た風景が気に入ったそうで、一時は「信州大の教授になりたい」と漏らしたほどほれ込んでいる。

加えて地方行脚には、「霞が関や永田町における金融庁の存在感が薄いことの裏返しだった」(財務省幹部)との指摘がある。遠藤氏は、政治家や財界筋と腹を割って本音で話せる「大物次官」のタイプではない。これには金融庁が「専門家集団」で、民間出身者が全体の3割ほどを占める「特殊事情」もあったろう。その中での地方行脚は「国政選挙を見据えて、地方票の足固めをしておきたい菅官房長官の方針と一致していた」(金融庁職員)といえる。