※本稿は、丸木強『「モノ言う株主」の株式市場原論』(中公新書ラクレ)の一部を再編集したものです。
「中長期的な企業価値向上をめざしているから」
我々は投資先企業に対し、「配当性向100%」の株主還元を要求することがあります。つまり、1年間の税引き後利益の全額を配当金に回してほしいということです。自己資本だけではなく現金などの資産を貯め込んでいる企業を特に選んで投資しているので、時にはDOE(Dividend on Equity Ratio=株主資本配当率)6%や8%を併せて提案することもあります。
いかにもアクティビストらしい、アコギな要求だなと思われるかもしれませんが、そうではありません。相手かまわず身ぐるみ剥がそうとしているのではなく、ブクブクに太った相手を選んで、その脂肪の一部を削って健康体に戻りましょうと言っているに過ぎないのです。
よく指摘されるように、日本企業は資産を現金や有価証券などで大量に貯め込む傾向があります。いわゆる内部留保が過剰で、だからPBRも低いわけです。
ではなぜ、経営者の方は内部留保を多く持とうとするのか。本音は「経営が多少失敗しても安心だから」であろうということは本書で述べたとおりです。ただ、よく伺う理由の一つは、「中長期的な企業価値向上をめざしているから」。将来必要になる研究開発や設備投資、あるいはM&Aの資金としてプールしている、というわけです。
本音は「自分の在任中はやる気がない」
しかし、単に「中長期的に」とだけ説明して具体的な期間を示さないことは、いくつもの点で間違っています。そもそもなぜ「中長期」なのか、それは何年後を指しているのか。我々がそう尋ねて、明確に回答された経営者の方は一人もいません。そもそも企業価値の向上は中長期的にめざすものではなく、恒常的かつ持続的に取り組むべきものです。
経営者の方が語る「中長期的」とは、「自分の在任中はやる気がない。後任に丸投げするつもり。しかしそうはっきりも言えないから適当にごまかそう」という意味だと、少なくとも私は解釈しています。
本当に研究開発や設備投資などに使うつもりなら、具体的な中期経営計画などを立てて、その中に数字として盛り込むべきでしょう。もちろん、そこではどれくらいのリターンを見込んでいるかも明記する必要があります。結果的にうまくいかない場合もあるでしょうが、少なくとも株主を納得させられる準備や計画を立ててほしいのです。