「将来のM&Aの原資」と言いつつ一向に動かない

それから前述のとおり、内部留保を多く持つ理由としてよく挙げられるのが、将来のM&Aの原資にする、というものです。

たしかに今、中小企業でもM&Aが活発に行われています。一緒になることでシナジーを生み出すとか、シェアを拡大するとか、あるいはM&A対象会社の後継者問題を解決するとか、それぞれに戦略があるようです。

もちろん、M&Aには資金が必要になります。しかもライバル企業も同じようなことを考えるので、スピード勝負なところもある。だからとりあえず今は計画がなくても、将来的に機敏に動く機会があるかもしれない。そのときに備えて、資金を手元に置いておく必要がある、というわけです。

一見もっともらしいのですが、そう言い続けたままM&Aには一向に動かず、結局内部留保を貯め続けている企業も少なからずあります。たしかに、設備投資や研究開発のように何年後にいくら使うとはなかなか予定しにくいものではあります。これを中期経営計画で明確に数字を示すことは難しいでしょう。

顕微鏡を使用するアジアの研究者たち
写真=iStock.com/RyanKing999
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M&Aをすべて自己資金で賄う必要はない

しかし、そもそもM&Aをすべて自己資金で賄う必要はありません。まして我々が投資しているような自己資本の充実した企業であれば、いざ買おうとなった段階で、銀行から借り入れれば十分です。財務のことを考えれば、むしろそのほうが望ましい。後にも説明しますが、資金を調達するコスト(資本コスト)を低く抑えることができるからです。

つまり、会社の資金調達は、そこに投資している既存の株主にとっては、自分たちの持ち分が希薄化しないよう、借金でやってもらうほうがよいのです。もちろん、利子の支払いに窮するほどの大借金はNGですが。