現実的な計画がないならただちに株主に還元すべき

中には10年の長期計画を策定する会社もあります。しかし、せいぜい3年、長くても5年以内に達成できるような計画でなければ、信憑性は乏しいと思います。10年後には経営計画の責任者であった社長も退任してしまっているでしょうから、それを今から立案するのは無責任だとも言えます。現経営陣が経営に自信を持てないため、3年後の目標を低めに設定し、10年後の目標値を高くして誤魔化していると受け止められても仕方がありません。

実際、3年の中期経営計画で具体的な資金使途と投資リターンの予想を出している企業もあります。その計画が現実的であるなら、「中長期的」と称しても投資家を納得させることができるかもしれません。しかし計画がないなら、ただちに株主に還元するのが道理というものです。

あるいは、内部留保を貯め込むのは経営の失敗以外の危機に備えるもので、一種のリスクヘッジであると語る経営者の方もいます。何か突発的な事態に備え、ある程度の余裕資金を持っていたいというわけです。

たしかにビジネスのトラブルではなく、海外での戦禍や政情不安、台風や地震のような自然災害もいつ起きるかわかりません。先のコロナ禍も、大半の企業にとってまったく想定外の事態だったことでしょう。

お金を無尽蔵に貯める必要はない

しかし、ものには限度があります。対処にかかるであろう金額を、常時キャッシュや有価証券・不動産などの現物資産で持っておく必要があるのかという話です。例えば先の東日本大震災では、多くの企業が被災しました。復旧して通常業務に戻るまでにどれぐらいの資金が必要だったか、記録として残していると思います。それがあれば、もし次に同じような被害を受けたとき、どれくらい必要かもだいたいわかるはずです。無尽蔵に貯める必要はありません。

オフィスデスクで積み重ねられたコインを保護するビジネスマン
写真=iStock.com/AndreyPopov
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それに金額がわかったとして、その全額をプールしておく必要もないでしょう。いざというとき、その額を銀行から借り入れられるようにしておけば済む話です。それよりも、先の経験を活かして建物の耐震補強工事をしておくとか、より安全な場所に移転するとか、今のうちにできる投資はいろいろあります。リスクヘッジなら、こちらのほうがよほど有効です。

先のコロナ禍にしても、たしかに予測不能な未曾有の危機ではありましたが、その分、政府や地方自治体からは「ゼロゼロ融資」をはじめとして、企業向けにいくつもの救済策が提供されました。おそらくはそれも一助となって、コロナ禍が原因で倒産した上場企業は、ほとんどなかったと思います。やはり、企業が余計に貯め込む必要はないということです。