外資系ファンドに買われることは企業にとって悪なのか。ストラテジックキャピタル代表取締役の丸木強さんは「外資に買われるというとネガティブに捉えられがちだが、そうとは限らない。外資系ファンドが深く関わった事例として、最近では、2023年のセブン&アイ・ホールディングスによるそごう・西武の売却が挙げられる。この売却は極めて真っ当な決断だった」という――。

※本稿は、丸木強『「モノ言う株主」の株式市場原論』(中公新書ラクレ)の一部を再編集したものです。

西武池袋本店
写真=時事通信フォト
西武の労働組合の組合員によるストライキのため、臨時休業となった西武池袋本店。百貨店業界のストは61年ぶり(2023年8月31日、東京都豊島区)

「外資に買われる」のはネガティブとは限らない

昨今は、外資系の企業やファンドによる買収を警戒する日本企業が多くなっています。もともと資金力に圧倒的な差がある上、折からの円安もあり、たしかにターゲットになりやすいでしょう。

これは防ぎようがありません。最大の防衛策は、できるかぎり株価を引き上げること、そのために売上や利益を伸ばすだけではなく、資本の効率性を高めることです。あるいは東芝のように、非上場化の道を選ぶ手もあります。

ただし外資に買われるというとネガティブに捉えられがちですが、かならずしもそうではありません。経営陣の刷新や経営方針の見直しにより、業績や株価が上がることも期待できます。むしろそれを目的に買っているはずなので、外資だからといって過度におそれる必要はないと思います。

それに国家による外資規制もあります。外為法により、安全保障上の観点から重要な企業の株を外資が買う場合、発行済み株式数の1%以上なら事前に届け出る義務を課しています。審査の結果、国の安全を損なうなどの恐れがあれば、関係大臣は中止の勧告や命令ができるのです。あるいは個別の業法によっても、外資の参入は規制されています。例えば放送法によって、放送事業者では外資の比率が20%未満に抑えられていることは有名でしょう。今後も合理的な理由があれば、外為法なり個別の業法なりで守ればいいわけです。

外国人投資家が日本から抜ければ、日本は貧しい国になる

それでも外資が嫌なら、もはや日本は鎖国するしかありません。現在、日本株全体のおよそ3割は外国人が保有しています。また日々の売買代金(現物)の約6~7割は外国資金が占めています。悪く言えば日本の株式市場は外国人の動向に大きく振り回されるわけですが、彼らが主要なプレーヤーであることは間違いありません。

それに、日本企業や日本の投資家がこぞって海外の資産や会社を買っていることは周知のとおり。バブル時に三菱地所が米国の象徴とも言うべきロックフェラーセンタービルを、ソニーがコロンビア映画を買ったことはたいへん話題になりました。最近でも、例えば日立やパナソニックなどの大手は海外企業を買収しています。成否はともかくソフトバンクグループのビジョン・ファンド(10兆円ファンド)も話題になりました。2023年12月には、日本製鉄がUSスチールの買収を発表しています。我々が投資している中堅企業の中にも、海外への投資に積極的なところがあります。

自分たちがこれほど自由に買っておきながら、海外からの資本を遮断するのは無理があります。そもそも資本は、国境を越えて縦横に行き来してこそ大きな価値を生むのです。

もし外国人投資家が日本から抜ければ、日本株は大きく下落し、経済は低迷し、日本はひどく貧しい国になるでしょう。それが国民の総意なら仕方ありませんが、そうではないと信じたいところです。より豊かな暮らしをしたいと願い、そのために日々がんばっている方のほうが多いのではないでしょうか。