正直であること、率直であること、公正であること
一方で、知識社会に最適化した組織は[図表1]の右側にあるような、ネットワークモデルです。現在は、官僚組織のようなヒエラルキーモデルが根強く残っている一方で、新興テクノロジー企業に代表されるようなネットワーク型の組織が存在感を増しています。実際はこのふたつのモデルの間に、さまざまなバリエーションが存在しています。
いま、わたしたちは職場でも日常でも、複数のネットワークの中で生きています。かつてのように、シンプルな人間関係の中で生活が成り立っている人は少なくなっています。この関係性のネットワークは絶えず変化しています。その中でわたしたちは常にネットワークに対して何かを与えると同時に、ネットワークから何かを受け取っています。
誰かと関係すると、必ず軋轢や衝突も起きます。そんなとき、うまく対処できなければよい関係を持ち続けることはできません。よい関係性とは仲がいいとか一緒にいて心地よいということだけを意味しているのではありません。
相手のことを理解し、ともに変容していけるかどうか、それが関係性の質を決めます。そのためには正直であること、率直であること、公正であることなどが求められます。ネットワークの中でそうした振る舞いを実現できるかどうかは、自分をうまくマネジメントできるかどうかにかかっています。
「自分が何を望んでいるのか」に気づいているか
先日、わたしのワークショップの参加者の何人かが「職場の人たちにどう思われているか不安で、会社では身動きがとれない」と打ち明けました。実際、人が正直に自分の意見を言ったり、大切なことを打ち明けたりすることができないような組織はたくさんあります。
ヒエラルキーモデルの世界では、そもそも自分の意見など言う必要もありませんでした。毎日同じ場所に行って、自分の仕事をして家に帰る。そうすることで評価され、報酬も得られ、何十年も会社に居続けることができました。
一方、ネットワークモデルの世界では、個人は人間関係においていままでよりずっと多くのことを求められています。一人ひとりがネットワークに対して、何かを提供しながら、何かを得ています。自分が役割に埋没せず、本当に望んでいる結果や状態を実現するには、好むと好まざるとにかかわらず、ネットワークの中にいるほかの人たちと交渉する必要があるのです。
交渉の出発点になるのは「自分が何を望んでいるのか」に気づくことです。ヒエラルキーの中にいるときは、何を望んでいるかがわからなくても、役割は与えられましたが、ネットワークモデルでは、自分で決められない人はどんどんネットワークの周辺に追いやられてしまうのです。