これはつまり「中国人観光客も富裕層ばかりではなくなった」「最近は中国人のバスツアー団体客が増えた」など、訪日中国人観光客の「質」の変化を考える際は、その時々の観光ビザの要件によっていまどのような人々が日本のビザを手に入れることができているのかを考える必要があるということである。

外国人観光客は「上客」か「招かざる客」か

平成30年「京都観光総合調査」では外国人消費額の単価は日本人消費額の2.2倍とされている。つまり外国人観光客は日本人にとって、とても「効率の良い客」なのである。

しかし、その一方で、これまで見てきたような外国人観光客へのヘイトの高まりも無視できない。彼らは「上客」なのか、「招かれざる客」なのか、どちらなのだろうか。

現在のインバウンドブームが到来する前である、2003年に行われた内閣府の世論調査では「海外からの観光客が増えることをどう思うか」という問いに対して、「増えてほしい」(48.2%)が「増えてほしくない」(32.4%)を上回っていたが、「増えてほしくない」理由としては90.2%の人々が「犯罪の増加につながる心配」をあげていた。

また「ビザ取得の免除や簡素化はすべきでない」が53%と、「免除・簡素化すべき」の22.1%を上回っていた。さらに「観光庁」が発足した2008年に総務省によって行われた「訪日外国人旅行者の受入れに関する調査」では、ホテル・旅館の実に72.3%が「今後とも外国人旅行者を受け入れたくない」と回答している。

効率のいい客、救世主、でも不満が募る…

日本のインバウンド誘致は「官」主導であったといわれるが、国民や観光業界はどちらかといえば、もともと「冷めていた」ことがよく分かるデータといえるだろう。とくに実際に最前線で外国人観光客を受け入れることになる宿泊業界は及び腰であったといえる。

そんな日本社会が、出口の見えない「失われた20年」やリーマンショックによる消費の冷え込みなどによって、「背に腹は代えられぬ」と渋々「救世主」として外国人観光客を受け入れることになったというのが現実なのだ。

一方で、日本にこれだけの外国人が訪れること自体がこの国が経験するはじめての事態であることも事実である。そして、それに対する社会的な合意の形成が十分であったとはとてもいえず、そのことが社会やコミュニティにストレスや不安や反感をもたらすことになった要因といえるだろう。とくに地域の安全・安心にかかわる問題として持ち上がるマナー問題などは象徴的である。