「現場を見ればすべてわかる」という落とし穴

ちなみに、「インダストリー4.0先進工場」をドイツに視察に行った日本企業の生産技術のベテランが、「うーん、意外に大したことないね」といった印象を持って帰ってくることがよくある。「ウチのほうが進んでいるんじゃないか?」くらいのことを言うこともある。

日本の生産技術は、過去50年以上にわたって現場のカイゼンに取り組み、結果、世界最高水準の現場の生産品質を作り上げた。彼らこそがまさに、「モノづくりニッポン」を支える、縁の下の力持ちたちだ。

当然、彼らは、「現場を見ればすべてわかる」と強い自信を持っている。それはそうだ。現場を一目見れば改善点がわかってしまう、彼らの経験と見識こそが、世界最高の現場を作ったのだから。

しかしここに大きな落とし穴がある。彼らは、フィジカルなカイゼンしかやったことがないのである。前述のように、インダストリー4.0の狙いは「前工程・工場・後工程をデジタルによって一気通貫につなぐ」ところにある。つまり、インダストリー4.0の本質は「工場を視察」しても見えないのだ。

また、「インダストリー4.0的なことは日本企業でも以前から取り組んでいる」といった意見もある。だが彼らが言う「4.0的な活動」とは、要は「スマート工場を作る」ことなのである。

「スマート工場」は従来の延長線上にあるだけ

念のため付記しておくと、日本の製造業には2種類ある。製造装置やセンサーなどのメーカー、つまり「スマート工場」を売っている製造業と、それを買って使う立場にあるその他の製造業である。

前者の製造装置やセンサーなどのメーカーが、この「スマート工場」ブームを商機ととらえ、ブームをさらに盛り上げようとするのは、企業活動としては当然である。せっかくの盛り上がりを見逃す手はない。「弊社のスマート工場向け製品を導入すれば、現場のさらなるカイゼンが進みます」との主張で盛り上げをはかるのは当然だ。

しかし後者の、それを「買う」側の企業は、よく注意しなくてはならない。スマート工場を買えば、工場内のカイゼンはさらに一歩進むかもしれないが、それは従来から得意としていたやり方を続ける(タテ軸を伸ばそうとしている)にすぎず、インダストリー4.0つまり第4次産業革命への対応という観点からすればむしろ逆行しているとすら言えるからだ。