10秒あったら、深呼吸
また、「不安」への対処は、10秒でできる。一つ深呼吸をして、肺を酸素でいっぱいにする――それがいちばん簡単で、手っ取り早い方法だ。
深呼吸をしたとたん、心臓の早鐘はおさまり、神経も安らぐ。深呼吸を二、三度くり返せば、気持ちが落ち着き、リラックスして、いま置かれている状況を冷静に検討できるだろう。
とにかく、気持ちが動揺して、プレッシャーに負けそうになったら、深呼吸をするに限る。頭も冴えて、名案が浮かぶにちがいない。脳にはたっぷり酸素が送りこまれ、思考能力にも磨きがかかるはずだ。
呼吸に集中してマインドセットを切り替える
テニスプレイヤーの場合、ポイントとポイントのあいだには数秒間の余裕しかない。その時間をフル活用する方法が、じつは深呼吸なのだ。呼吸することに集中するだけで、マインドセット――その状況をどうとらえるかという思考――までも切り替わる。
2018年の全米オープンの前にも、私はなおみに深呼吸の効用について話した。これから試験に臨む学生にも、重要な会議を控えたビジネスパーソンにも、睡眠不足で頭がふらつくあらゆる人に、深呼吸は役に立つ。
気持ちをリセットして、新規まき直しを図る際にも、呼吸法を変えるのは効果的だ。自分に活を入れたいときは、深呼吸とは逆に、浅い呼吸を素早く何度かくり返すといい。心臓の鼓動がすこし早くなって、体もしゃきっとする。血流が早くなり、瞳孔もひろがる。体はいつでもゲームに、試験に、会議に、即応できるはずだ。
テニスコーチ
1984年生まれ、ドイツ人。ヒッティングパートナー(練習相手)として、セリーナ・ウィリアムズ、ビクトリア・アザレンカ、スローン・スティーブンス、キャロライン・ウォズニアッキと仕事をする。2018年シーズン、当時世界ランキング68位だった大坂なおみのヘッドコーチに就任すると、日本人初の全米オープン優勝に導き、WTA年間最優秀コーチに輝く。2019年には、全豪オープンも制覇して四大大会連続優勝し、世界ランキング1位にまで大坂なおみを押し上げたところで、円満にコーチ契約を解消。