プログラミングもAIの仕事になる

私は「おばあちゃんプログラマー」として、プログラミング教育の旗振り役を求められることもあるのですが、じつは「プログラミングも人間がやらなくなるのでは」と思うことがあります。

もちろん、プログラミングという概念そのものを学ぶのは、とても意味があることだと思っていますよ。今の世の中は、ほとんどすべてのものがプログラムによって動いていますから。プログラミングを覚えて、なにか一つでもアプリなどを作ってみる。それは、「自分が普段使っているサービスは、こういうふうに成り立っているのか」と理解するための、すごくいい勉強になるでしょう。

でも、今やプログラミングもどんどん自動化されています。将来的には、人間がほとんどコードを手で書かなくてもよくなるかもしれない、と思うのです。そうすると、「やりたくないけれど、将来必要になるだろうから」とプログラミング言語を頭に詰め込むのは、あまり意味があるとは思えません。これも「なにか作りたくなったとき」に、それを作るのに最も適している開発言語を勉強したほうが効率的なような気がします。

子どもには「人間力」をつけさせるべき

こうした変化の話を聞くと、子育て真っ最中の親御さんは「銀行などの大手企業もダメ、会計士や弁護士などの専門職もダメ、プログラミングもダメだなんて、子どもにどんな道を歩かせればいいの?」と途方に暮れてしまうかもしれません。

私は、特に道を用意してあげなくてもいいと思います。将来のための準備をするのではなく、今この時を楽しむ。それでいいのではないでしょうか。

10歳の子には、10歳でしかできないことがあります。今しか遊べないお友達もいる。今できることを目一杯体験する。その子が今やりたいことが、コンピューターで遊ぶことなら、プログラミングをやってみるのもいいでしょう。ITにまったく興味を持たず、外を駆け回っているのであれば、それもまたよし。体を動かしたい子、本を読みたい子、ゲームで遊びたい子など、それぞれの子にやりたいことがあるはずです。それを尊重してあげてください。

若宮正子『独学のススメ』(中公新書ラクレ)

これからは、「体験」が重要な学びになります。「知識」を蓄えることはコンピューターのほうが得意ですから、お任せすればいいのです。

どんな仕事も、AIの手を借りて一緒にやるようになる時代。そうしたら、AIにはない「人間力」が必要になります。

おいしいものを味わうこと、人情にありがたみを感じること、きれいな景色に感動すること。どれも、AIにはできないことです。こうした体験から、新しい商品・サービスが生まれるかもしれない。前例がないことを生み出し、熱意をもって世に広めていくのは人間の仕事です。

自分の感性やバランス感覚を磨いていくためにも、たくさんの「初体験」をお子さんにさせてあげてください。もちろん、あなた自身にも。

若宮 正子(わかみや・まさこ)
世界最高齢プログラマー
1935年、東京生まれ。東京教育大学附属高等学校(現・筑波大学附属高等学校)卒業後、三菱銀行(現・三菱UFJ銀行)へ勤務。定年をきっかけにパソコンを独学で習得。シニア世代のサイト「メロウ倶楽部」の創設に参画し、副会長を務める。2016年からiPhoneアプリの開発を始め、2017年には米国アップルによる世界開発者会議に招待される。ティム・クックCEOからは世界最高齢のアプリ開発者として紹介された。政府の「人生100年時代構想会議」の最年長有識者メンバーにも選出。
(写真=iStock.com)
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