1年間に流通する宅配便の数は年間80億個。そのすべては人の手で運ばれている。茨城県で運送会社を経営している鳥波(とば)孝之さんは「日持ちのしない乳製品を運んでいるので年中無休になってしまう。楽な仕事ではないが、社会の発展のために尽くしたい」と話す――。

鳥波運送の大型トラック(写真=鳥波社長提供)

日本の配送業者は6万社超、ほとんどが中小企業

「メディアで報道される『配送』は、宅配便の例がほとんどですね。宅配便は誰にとっても身近で、分かりやすいと思うので否定はしません。ただ、全国津々浦々の戸口に配達する宅配便は、あくまで小口配送の一業態で、大手中心の事業です」

今回の取材は、運送業界の関係者からこんな話を聞いたのがきっかけだった。

筆者自身を振り返れば、これまで「宅急便」(ヤマト運輸)を複数回取り上げ、「共同配送」「センター納品」などもテーマに記事を書いたが、取材先は大企業やその関連企業だった。それなら業界(約6万2000社)の大半を占める中小企業の実態を聞こうと思い、「中小の集まりであるトラック協会」の関係者に取材したのが本稿だ。

この業界は、どこに焦点を当てるかで記事の中身が大きく変わる。特に「物流」「運送」「配送」では異なり、専門用語も多い。業界関係者はともかく一般読者には分かりにくい。今回は日本の配送の一翼を担う「中小トラック運送の事例」として読んでいただきたい。

ネットでの通販や発注が一般的となったのもあり、小口の配送荷物は増加傾向にある。個人や会社がワンクリックで注文・発注できる時代であっても、商品は空を飛んで来るわけではないからだ。

そもそも国内で「小口荷物」(30キロ以下)は、1年でどれぐらい配送されているのか。業界を管轄する国土交通省に聞いたところ、完全な該当データが無かった。

それに近いものが、2016年度の「国土交通省調査」だ。「宅配便等」(30キロ以下)が約80億個。内訳は「宅配便」(約40億1900万個)と「トラック」(約39億7800万個)がほぼ同数。さらに「航空等利用運送」(約4100万個)があり、軽量の「メール便」は約52億9000万個だった。

「トラック」とはトラック便という意味だ。国民1人当たりで年間に約70個弱(宅配便+トラック)を利用している計算となる。

茨城から九州まで3日間走りっぱなし

今回、個別取材に応じてくれたのは、茨城県古河(こが)市にある茨城流通サービス社長の小倉邦義氏と、鳥波運送社長の鳥波孝之氏だ。ともに業界歴は30年以上で、小倉氏は一般社団法人茨城県トラック協会・古河支部の支部長、鳥波氏は同理事でもある。

「私たちが運ぶ荷物は、送り手(荷送り)も受け手(荷受け)も対象は企業や団体。BtoB(企業対企業)事業です。宅配便はBtoC(企業対個人)も多いのですが、それではありません。でも、お客さん(送り手・受け手)の事情に合わせるのは共通しています」

小倉氏はこう語る。ちなみに茨城流通サービスは北関東を中心に、2トン車(積載量は2.0トン)、4トン車(同3.2トン)、大型車(主流は14トン車)で工業製品や雑貨類などを輸送するほか、取引先の工場で流通加工業も行う。

近年は「積み合わせ輸送」に注力している。積み合わせ輸送とは、1つのトラックで十数社を回り、荷物を積んで運ぶこと。共同配送の一種で集荷に手間がかかるが、その分「価格競争」に巻き込まれにくいという。

一方、鳥波運送は、県内や近県への乳製品や飲料配送を得意とする。時には九州までの荷物を依頼されることもある。後述する「物流2法」による規制緩和で、これまでは制限されていた配送業者の「営業区域」もなくなったからだ。

「前回は福岡県までの依頼で、コンテナに荷物を積んで古河市から埼玉県の熊谷市まで陸送。熊谷駅の貨物ターミナルでコンテナごと積み替え、貨物列車で福岡市内のターミナルまで運びました。そこから目的地まで陸送したケースがあります」(鳥波氏)