「人付き合いが苦手」でもやりやすい

人手不足とはいえ、若い世代も入社する。運送業界を志望する理由は、総じていえば(1)車の運転が好き(2)、他業界に比べて30歳までの賃金は恵まれている、(3)運転中は特に細かく拘束されないので、人付き合いが苦手な人もやりやすい――からだという。

なお、超過労働については「4時間運転で30分休むことが義務付けられており、運行記録計(タコグラフ)で把握できる。高速道路の休憩所が満車で、次まで走るような問題もあるが」という意見だった。簡単にはいかないが、優秀な人材確保には「適正な配送運賃」もカギだろう。

また今後、自動運転が進むとトラック運送はどうなるのだろうか。

「トラックに限っていえば、2023年ぐらいには一定の自動運転となるのではないか」と小倉氏は予想する。ただし「幹線道路の輸送に限った話で、配送荷物の入口と出口の話でいえば、幹線道路を運ぶだけでは、配送は完結しません」と付け加える。

例えばトヨタグループでは、豊田通商が音頭を取って自動運転実験を続けているという。プロドライバーは「消える仕事」という声もあるが、もう少し状況が進まないと分からない。

生死をさまよった経験から生まれた感謝

さまざまな課題に向き合いながらも、小倉氏も鳥波氏も前向きだ。最後に「この仕事の醍醐味や使命感」を聞いてみた。

「トラック輸送は社会インフラなので、経済活動の一翼を担っている自負心はあります。まだまだ世間の関心は『宅配便』だったり、『買い物難民』だったりするのですが。業界では、各大学の『物流ゼミ』と連携した社会講座も開いています。ゼミの学生さんからは、社会に貢献している業界という理解が得られるようになってきました」(小倉氏)

「東日本大震災のような大災害が起きて物流が遮断されると、商品配送のありがたみが再認識されます。でも、すぐに忘れられてしまう」と苦笑いする鳥波氏だが、活動の原動力は「親から受け継いだ家業を絶やしたくない」のもあるという。

安全教室で同業者と記念撮影する鳥波社長(右端。写真=鳥波社長提供)

「実は17歳の時、暴走ダンプカーにはねられて1週間意識不明だったことがあります。その時、多忙だった親父が病院に泊まり込んでそばにいてくれた。意識が戻ってから聞いたのですが。大学時代から家業を手伝い、跡を継いだのも感謝の気持ち。零細企業ですが、社会の発展のために尽くしたい思いはあります」(鳥波氏)

2人とも「運送業は毎日のように目にする存在だが、労働環境などが不透明に捉えられている業界」だと話す。「少しでも理解が深まれば」というのが取材に応じてくれた理由のようだ。毎日配送される荷物には、そうしたプロの誇りも詰まっている。

高井 尚之(たかい・なおゆき)
経済ジャーナリスト・経営コンサルタント
1962年名古屋市生まれ。日本実業出版社の編集者、花王情報作成部・企画ライターを経て2004年から現職。「現象の裏にある本質を描く」をモットーに、「企業経営」「ビジネス現場とヒト」をテーマにした企画・執筆多数。近著に『20年続く人気カフェづくりの本』(プレジデント社)がある。
(写真=鳥波社長提供)
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