このような「ルーティンワークではなく、人間らしいワクワクする仕事をする」という、親子二代にわたるHILLTOPの哲学と施策が、社員の内発的動機を高めたことはいうまでもないでしょう。もちろん、ルーティンワークにも大きな価値があります。しかし、創造性が求められる現代社会において、ルーティンワークが若者など従業員の内発的動機を高めにくいのも事実です。実際、米ペンシルべニア大学の著名経営学者アダム・グラント教授等の研究では、「内発的動機が高い人ほど、人は創造性が高まる」という結果が得られています。まさに、HILLTOPが高い創造性を発揮し、社員が活き活きと働いているのは、この顕著な例といえるのです。

業務を効率化するほど、仕事量が増えてしまう

HILLTOPの成功のカギを示す第2のキーワードは、「シェアードリーダーシップ」です。特定のひとりがリーダーになるのではなく、組織メンバー全員がそれぞれビジョンを持って自律的に動き、お互いに影響を与え合うことを指します。

変化のスピードが速くなり、経営環境が不透明化した現代では、あらゆる仕事がプロジェクトベースで動くようになりました。こうした環境では、ひとりのリーダーがビジョンを掲げて変革をめざすより、メンバー全員がリーダーシップを発揮するほうが、成功確率やスピードは高まる、という主張も経営学ではされています。まさにシェアードリーダーシップの時代なのです。

取材した2018年5月、同社は折しも組織を再編成したばかりでした。

「会社の部署を実質的に全部撤廃してしまったんです。組織図としては残っているのですが、基本的にやりたいプロジェクトがあれば部署に関係なく自由に参加していいよ、という方式をとっています。おかげで今、みんな大混乱に陥ってオペレーションがぐちゃぐちゃという状態です(笑)」

抜本的な組織改革を行ったきっかけは、会社の規模が急激に大きくなったことだった、と勇輝氏は言います。

「組織の生産性を高めようと効率化を進めたのですが、効率化すればするほど仕事が増えてしまうことに気づきまして。余裕ができた分、クリエーティブな仕事をしてもらいたかったのですが、暇になった組織はすぐ別の仕事を抱え込んでしまう。だからこの際、組織そのものをなくしてしまえ、と。上から降ってくる業務がゼロになれば、みんなやりたい仕事をやれますから」

組織がないということは、上司も存在しないということ。つまり、誰かに言われた通り働くのではなく、社員全員がリーダーシップを持ち、自主的にプロジェクトを動かしていかなければ、仕事が回らないということです

「じつは私自身も、肩書は持っていません。名刺はHILLTOP経営戦略部長ですが、社外活動の都合上、適当につけただけなんです」と勇輝氏。