100年イノベーションが起きなかった「部品調達」という領域
モノ自体が世の中に行きわたっていなかった時代は、車やテレビ、白物家電といった生活まわりの製品は、同じようなものが大量に生産されていました。しかしそこから先は、個別のニーズに合うように製品は細分化され、製造業は体制の変化を迫られるようになりました。
製造業における「設計・調達・製造・販売」というバリューチェーンに注目してみれば、設計では3D CADやCAEなどコンピューターを活用した支援システムが、製造では自動化やロボット化が、そして販売ではビッグデータの活用がすすむなど、さまざまなイノベーションが起こっています。
しかし、このバリューチェーン全体のコストの半分以上を占めている、120兆円もの巨大な「部品調達」の領域には、100年以上目立ったイノベーションが起きていません。これは過去30年で半数以上の町工場が廃業に追い込まれていることと無関係ではなく、製造業の中にひそむ根深い問題をしめしています。
部品の原価計算は手間がかかる
もともと私は新卒では外資コンサルティングファームのマッキンゼーに入社しました。3年半ほどの在籍期間中、重工業や大型輸送機、建設機械、医療機器など、大手製造業メーカーを担当し、細分化された製品の調達業務を改革する支援をしていました。
そこでの主なミッションは、部品調達をより効率的に低価格で行うための支援です。具体的には、部品単位で製造工程に細かくブレイクダウンすることで、購買している製品の製造原価を正確に分析・算出。そこで出た原価の推定値をもとに、仕様・設計の見直しやサプライヤー(仕入先)との交渉支援を行います。シンプルな作業でしたが、これが実は非常に難易度が高く、日本でもこれを実施できている会社はきわめて少ないといわれています。
たとえば、約3万点の部品を組み合わせてできている電車の車両で、それぞれの部品がどのように作られているのかを材料から製造工程まで詳細に分析し、各工程にかかる時間を算出します。すると、その部品をつくるために必要な理論上あるべき原価、いわゆる「理論原価」を出すことができます。ただし、その原価計算は非常に複雑で手間がかかるため、一見シンプルに見える部品でも、正確に割り出すのはかんたんではありません。それは実際に製造している町工場にしてもおなじように難しいのです。