半月かかっていた作業がたったの7秒で終わる

今まで話してきたような調達領域の構造的課題に直面し、「この大きな不合理を解決したい」という気持ちが日増しに大きくなり、私は起業することを決めました。社名はキャディ。その由来は、独自の図面解析・自動見積もり技術で板金加工の最適なマッチングを実現する、「CADDi(キャディ)」というサービスを提供することからきています。

発注者は3D CADの図面データをウェブ上にアップロードするだけで、キャディがそれを自動解析し、これまで2週間ほどかかっていた見積り価格と納期を約7秒で算出できます。発注者に提示される価格は、提携している全国の町工場の原価をもとに計算。板金加工品は321種類もの詳細なカテゴリーに分けられており、各町工場はそれらの中で最も得意とするカテゴリーにのみ特化して案件を受けられる仕組みになっています(図版参照)。

全国の顧客から受注した案件を、各町工場の強みをベースに再分配する、最適発注の仕組みを実現したわけです。

CADDiは発注側の工場と下請けの工場を仲介する役割を担う

ミッションは、顧客企業を軸につながる従来の「多重下請け構造」から、強みをベースにフラットにつながる「強み中心の構造」へと変革し、日本のものづくり産業が持つ本来のポテンシャルを解放すること。

技術や工数の観点から困難であった最適発注をテクノロジーで実現することで、提携する町工場は得意な案件を自動で受注でき、相見積もりをとることなく黒字案件を安定的に受注することが可能になります。一方で、発注側はすぐに見積もりを確認できるだけでなく、安くて品質のよい製品を安定的に発注することができるようになるのです。

ものづくりのポテンシャルを取り戻したい

私個人としては、各町工場が「どのような顧客と取り引きしてきたか」ではなく、「どんな強みを持っているか」で正当に評価され、活躍できる産業構造に変革していきたいという思いがあります。現在提供している自動見積もりサービスは足がかりにすぎません。目指すべきところは製造業に携わる企業すべての「ポテンシャル解放」の実現です。

そのために、まずは各町工場が付加価値の高い業務に時間を使えるようなサービスを提供していく予定です。たとえば、自動見積もりや生産管理の仕組みを町工場に対してオープン化するなど、物流の負担を大幅に減らすようなサービスの提供などを考えています。将来的には、相対的に付加価値の低い業務を減らすだけでなく、付加価値の高い業務をより強められるような仕組みの提供、さらには町工場へのファイナンスの支援なども手がけていく予定です。

町工場は発注を受けてから材料を購入しますが、お客さんからの入金があるまで通常4~6カ月ほど待たねばなりません。その間の運転資金が足りないために、既存の機械を活用できなくなるなど、投資や借り入れが現金を上回るなどの不健全なキャッシュフローが常態化し、高い倒産リスクにさらされます。

このため「CADDi」は売り上げが立った瞬間に入金できる体制を構築しています。さらに、高額な新しい機械を購入する際も、それを設置することでどれくらい生産効率が上がるのか、定量的なデータを提示できることから、融資の支援も予定しています。

町工場にとっては資金繰りが健全になり、さらには設備投資まで可能になります。これにより各町工場はさらなる加工技術の発明や研鑽にリソースを集中でき、より自社の強みを伸ばすことに注力できるようになるでしょう。

ファイナンスは一例にすぎません。製造業界には非効率なやり方や顧客依存の下請け構造をはじめ「歪み」がまだまだたくさんある。それらを一つひとつ改革して製造業のプラットフォームとなり、ものづくり産業全体が本来持つポテンシャルを発揮できるようにしていきたいですね。

キャディ代表取締役の加藤勇志郎氏
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