4月から働き方改革関連法が施行され、企業でも対応が求められています。中でも長時間労働の問題は深刻。なぜ、残業はなかなかなくならないのでしょう。立教大学の中原淳教授は「長時間労働の原因の7~8割は職場の慣習と上司が占めているといっても過言ではない」と言います――。

残業は個人の生産性の問題ではない

最近は多くの企業で「働き方改革」の旗を掲げ、長時間労働の抑制やワーク・ライフ・バランスを進めようとしています。にもかかわらず、労働時間は依然として短くなっていません。どうして長時間労働はなくならないのでしょうか。

一説に、個人の生産性が悪いから残業せざるを得ず、その結果、労働時間が長くなってしまうと言われます。しかし生産性の低さが長時間労働に直接つながるわけではありません。

むしろ労働時間が長くなる主な要因は、「職場の慣習化した働き方」と「上司の思考」にあります。

まず、職場に長時間労働が当たり前の雰囲気があり、同調圧力が働いていると、個人の生産性に関係なく、労働時間が長くなりがちです。職場で一般化した働き方や仕事のやり方を、変えていくのは容易なことではありません。

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「ワーク・ライフ・バランスに関する個人・企業調査」(内閣府男女共同参画局)によれば、「残業している人のイメージ」として、「仕事が遅い人」「残業代を稼ぎたい人」と-の印象で捉えている人が多い一方で、「頑張っている人」「責任感が強い人」と肯定的に想い描く人もかなり多いのです。職場で、残業する人は「頑張る人」「責任感が強い人」という価値観が優勢的であれば、それが長時間労働をよいことだとする職場の慣習を作り上げてしまいます。

残業体質は、上司から部下へ遺伝する

上司の影響も甚大です。上司は、自分が若いころ体験した働き方を再生産して部下に強いるところがあります。

上司にしたら自分は長時間残業し成功を収めてきたので、長時間労働はむしろ誇りです。働き方を変えろと言われると、自分の人格を否定されたように感じてしまいます。そのため労働時間を減らすことに抵抗感が強いのです。こうして残業は上司から部下へと“遺伝”するのです。

わたしの見立てでは、長時間労働の原因の7~8割は職場の慣習と上司が占めているといっても過言ではありません。これ以外には、業界全体に蔓延した商慣行や、仕事の性質上やむをえない要因もあります。しかし、これらの要因を変えていくのは、容易ではありません。よって、これらの難しい要因を排除すれば、残るは「職場の慣習」と「上司の要因」と「個人の働き方」です。このうち最も大きいのは「職場の慣習」や「上司のマネジメント」の要因です。

一方、「個人の働き方」によって、長時間労働を是正するのは、皆さんが考えている以上に難しいのです。端的に言ってしまえば、「個人の仕事術」で、残業を減らすことは、難しい。仕事術を駆使して生産性高く働く人には「上司がさらに仕事を割り振ります」。だから、個人の仕事のやり方だけが改善しても、長時間労働は減りません。組織と上司を変える必要があるので、この課題はハードルが高いわけです。

このような長時間労働が生じるメカニズムを知らないと、対応策は的外れになってしまいます。