HPVが原因のがんは男性にもある

HPVワクチンの研究が進んでいるのは子宮頸がんだけではない。肛門がん、陰茎がん、膣がん、外陰がん、頭頸部がんの一部はHPVが原因であることがわかっており、このようながんに対しても研究が進んでいる。これらは男性にも多いがんである。HPVワクチンについて知ることは、女性だけでなく男性のがん予防にもつながる可能性がある。しかし、そのことですら国内の一部の人にしか伝わっていない。

このような研究成果を世界の医学界は積極的に社会に訴えているし、一部は政策にも反映されている。アメリカやオーストラリアでは男女ともに接種することが推奨されている。集団免疫効果により全体の感染率を下げることが狙いだ。そういえば、海外留学予定の学生が、留学先から指定されたワクチンリストを持って私のクリニックを受診しているのだが、HPVワクチンも推奨リストに記載されていることが多い。学生に対し、何がリスクになりえるかということを示唆している分かりやすい例だと思う。

副作用についても多くの研究がなされているが、2013年7月にWHOの諮問機関である「ワクチンの安全性に関する諮問委員会」は「HPVワクチンは世界で1億7,000万回超が販売されており、多くの国で接種されている。市販製品の安全性に懸念はないことを再確認した」と総括している。

また2012年11月には、欧州医薬品庁(EMA)が、HPVワクチンは安全であるとの声明を出している。WHOは日本でのワクチン騒動を意識して、それを否定する声明を発表したが、日本のメディアでは取り上げられていない。

海外と日本の「医療の情報格差」

ガーダシル9は世界標準のHPVワクチンとしての評価を確立しているが、日本では未承認であり、その情報もあまり伝わっていないと感じる。この理由には言語の壁もあると思う。

世界的な医学情報のほとんどは英語で共有されている。たいていは誰でもアクセスできるものだが、日本国内でひろく情報が共有されるには日本語でたやすく読める情報も必要だろう。医療関係者からの発信はあるものの、まだまだ十分に伝わっているとは言いがたい。

情報が少ないことは新聞報道の数からもよく分かる。ガーダシル副反応が話題となった2013年にくらべると、最近では「HPVワクチン」か「子宮頸がんワクチン」を含む記事はごくわずかである。これではガーダシル9の存在が一般市民の目に触れる機会はほとんど失われてしまう。

今回、当院でのガーダシル9の接種者の内訳から、「医療の情報格差」について考えさせられた。国内でも情報格差は存在するが、これは海外と日本との間の国際的な情報格差の話である。

日本でのみ重大な副作用がおきた可能性は否定できないし、そこを無視することもできないだろう。しかしガーダシル9の効果について知らないふりを続けるわけにはいかないのだ。そのほうがよっぽどたちが悪い。

接種するかしないかは、効果と副作用を天秤にかけ、本人が判断すればいいことである。しかし判断材料となる正しい情報が手に入らなければ、損をするのは日本人、それも若い世代の人たちなのである。

濱木 珠恵(はまき・たまえ)
医療法人社団鉄医会ナビタスクリニック新宿 院長
北海道大学医学部卒業。日本内科学会認定内科医、日本血液学会認定血液専門医。専門分野は、内科・血液内科・旅行医学。2006年4月より現職。生活動線上にある駅ナカクリニックでは貧血内科や女性内科などで女性の健康をサポート中。
(写真=iStock.com)
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