自費で接種すると10万円近くかかる
このように海外ではすでに9価のガーダシルが推奨されているが、日本国内では4価のガーダシルまでしか承認されていない。ガーダシル9は世界標準のHPVワクチンとしての評価を確立しているが、日本では未承認であり、その情報も国民にきちんと伝わっていない。
当院のガーダシル9は、もともと知人を介して「20代女性でもHPVワクチンを接種したい希望者はいる。自費で接種するのであれば、効果の高いとされる9価で接種したい」という声が届けられて導入した。医療関係の仕事につく彼女の周囲では少なからぬ人数がそのような考えを持っていることがわかったからだ。
ガーダシル9は原価が高いため個人輸入しても1回につき3万円以上の費用となり、さらに3回の接種が必要なため自費で接種するには10万円近くかかる。それでも、「日本国内で定期接種の対象から外れてしまっているけれども、HPV感染によるリスクを少しでも減らしたいと思っている人たちがいるならば」と、始めたことだった。
ワクチンで将来の安心、安全を買う
最初の3カ月は月に20人程度の申し込みで、20~30代女性や、男性からの申し込みもあった。2018年3月頃から急に申込数が増え始め、半数以上を中国籍の方がしめるようになった。大半が留学中や就労で日本に暮らす20代の中国人女性だった。
診察のときに「なぜ、今回ガーダシル9を接種することにしたの?」と尋ねてみた。「中国でも接種しているけれど、私は今、日本に住んでいるから」「親から日本で接種してこいと言われた」「中国のワクチンはちょっと心配」「中国だと数が足りてなくて、日本のほうが早く予約ができた」「26歳を超えてしまったので中国では接種してもらえなくて」などなど。
なかには「日本国内で4価は止まっているけれども、9価は世界でメインですよね? 問題ないわよね?」という質問をしてくる方もいたが、日本で騒がれたような副作用を懸念する発言はあまり来ない。
むしろ「3回の接種が終わるまでセックスしないほうがいいのか」「途中で妊娠したときには接種スケジュールはどうしたらいいのか」という質問を積極的にしてくる。私が「日本だとあまりみんな接種してなくてね」というと「いや、接種するものでしょ。周りもみんな接種しているわよ」みたいな顔をされた。
そもそも接種する意志のある方々ばかりだからとも言えるが、少なくとも、中国人女性たちが当然のようにガーダシル9に関心を寄せ、積極的に接種しようとしていることがうかがえる。彼女たちにとっては、ワクチンは接種して当然。
それによって将来の安心、安全を買おうとしているのだ。