相手の情報は正しいか見極める方法
【佐藤】相手の情報の確度を見極めるために、情報の世界でよく使う手法があります。例えば、中国の人口はどれくらいか聞いたとしましょう。そのとき中国の人口を100億人と答えた人がいたら、いくら習近平体制の将来を熱く語ろうとも、聞く必要はありません。もちろん、7000万人と答えた人の話を聞く必要もないわけです(注:中国の人口は約13.8億人)。
大事なことは、その人がどういう公理系(一般に通じる道理)に基づいた考え方をしているのかどうかです。今、国立情報学研究所教授の新井紀子さんの『AIvs.教科書が読めない子どもたち』という本がベストセラーとなっています。2011年に始まった「ロボットは東大に入れるか」という人工知能プロジェクトを通して、AIは何を得意とし、何を苦手とするのかを分析したものです。この本を読むとAIも万能ではないことがわかる。それは新井さんが公理系に基づいた議論をしているからです。
公理系からはみ出して、この人の話は面白いとか、夢があるという理由だけでプロジェクトを判断すると、騙される危険があるのです。
【國分】たしかに当社には蓄積された過去の事例がたくさんあり、プロジェクトの可否を判断するために、過去の失敗から学ぶことも行っています。だからといって、現在進行中のプロジェクトが絶対に失敗しないということはありえません。そのプロジェクトを何のために行い、どのステージに向かっていこうとするのか。大きな視点による戦略性を持つことが重要だと思っています。
【佐藤】お話を伺っていて強く感じるのは、丸紅には健全な愛社精神があるということです。きちんとお金をかけて、研修をして、人材を育てていく。そうした会社には自然と健全な愛社精神が育まれます。もし能力のある人たちだけを集めても、会社に対する帰属意識やチームワーク、後輩を育てる意識は醸成されないでしょう。
私も外務省時代、いろいろと嫌なこともありましたが、それでも外務省に入ってよかったのは尊敬すべき先輩たちがいたからだと思っています。
作家・元外務省主任分析官
1960年、東京都生まれ。85年同志社大学大学院神学研究科修了後、外務省入省。在ロシア日本大使館勤務などを経て、作家に。『国家の罠』でデビュー、『自壊する帝国』で大宅壮一ノンフィクション賞を受賞。
國分文也(こくぶ・ふみや)
丸紅社長
1952年、東京都生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業。75年丸紅入社。30代のときに米国で石油トレーディング会社設立を経験。2010年丸紅米国会社社長、12年副社長を経て、13年4月より現職。