社内よりも「市場」での価値で勝負をする

【佐藤】AI(人工知能)の進展に伴い、これまで多くの優秀な人材を集めてきたメガバンクでもリストラや人員削減を行わざるをえない事態に直面しています。せっかく採用した優秀な人材を十分に使いこなせないままリストラの対象にするなんて本当に馬鹿げた話ですが、総合商社も対岸の火事ではないはずです。

作家・元外務省主任分析官 佐藤 優氏

どのようなかたちで構造的転換を図り、どう人材を育成していくのか。大きな経営課題なのではないでしょうか。

【國分】今後10年間で、我々がこれまで積み重ねてきた商社型のビジネスモデルがどれだけ生き残ることができるのか。その半分は消えてしまうのではないかという危機感を持っています。

そうした中、AI化に伴う変化によって、新しいビジネスモデルを生み出し、いかにプラスに転化させていくのか。そこで必要になってくるのが人材の多様性です。この多様性がなければ、本当のイノベーションは起こせない。そう考えています。

【佐藤】それは総合商社の問題だけではなく、日本政府、国家の問題でもありますね。

【國分】私も40年以上、商社パーソンとして働いてきましたが、総合商社というところは、ものすごく均質な人たちが多いのです。雰囲気や発想、行動も似ている。例えば、海外出張で飛行機に乗った際に、乗客を見て、「あの人は商社の人間だな」とだいたいわかってしまいます。それくらい雰囲気が似ているのです。

【佐藤】私も講演会に行くと、公安警察や公安調査庁、防衛省の情報本部の人間なのか、目つきだけでなく、立ち居振る舞いやメモの取り方でわかります(笑)。

【國分】つまり、そうした均質な人たちが集まった組織で、本当にイノベーションが起きるのか。確かに商社の経験という点では、まだ使える部分はあるのですが、もうそれだけでは足りないのです。

ここで言う多様性とは、単に女性活用を推進すればいいといった話ではなく、女性だろうが男性だろうが、どの国籍だろうが、価値観、文化、発想が異なる人たちが集まらなければ、革新的イノベーションは起こせないということなのです。

その意味でも、若い社員たちには日頃から、カンパニーバリュー(社内における価値)よりも、マーケットバリュー(市場における価値)で勝負をしなさいと言っています。これまではカンパニーバリューで勝負する人でも偉くなれましたが、これからはマーケットバリューの高い人をいかに会社の中に抱えていくかが大切になってくるはずです。