事務仕事も、集中できないときは無理に続けません。仮眠を取るほどでもないときには、YouTubeのゴルフ解説番組を見ながら、10分程度アプローチの練習をするのです。そのときは仕事のことはいっさい考えません。いったんリフレッシュしてから仕事を再開したほうが、仕事の効率は上がります。

仕事は期限内に終わらせることを心がけています。出来栄えが70%でもかまいません。100%にこだわって期限を延ばすより、ひとまずケリをつける。先延ばしにすると、残した仕事とこれからやるべき仕事の2つからプレッシャーを受けることになる。これは精神的によくない。だから、なんとか1つだけは終わらせて、プレッシャーがかかる方向を1つだけにするのです。

陛下との出会いで、仕事観が変化した

50代で業界の中でもそれなりのオーソリティとしてとらえられるようになり、エビデンスのある医療から逸脱しないレベルで、自分の考えたことを表現できるようになりました。

たとえば血管は、血液が漏れないようにしっかり縫合するのが基本です。しかし、場合によっては、あえて緩く縫ったほうがきれいな出来栄えになり、血管が長く持つことに気づきました。緩く縫えば圧迫止血をする時間を短縮できるので、手術時間も短くなります。このような画期的な手法を、52歳を過ぎたあたりからいくつも見つけて、手術がスピードアップしました。

オーソリティになって手術以外の仕事も効率化しました。それまでは学会の仕事に時間を取られていましたが、学会から一歩引いて、やるべきことに集中できるようになった。自分の中で、「外科医のゴールは手術」と言えるようになったのは大きいです。

ただ、当時は「自分が技術的に向上したい」「難しい手術をやって注目されたい」という気持ちが強かったことを正直に告白しなければいけません。

それが変わったのは、56歳で天皇陛下の手術を手がけてからです。術後、陛下の容体が気になってご公務をチェックしているうちに、自分の小ささに否応なしに気づかされました。

自分本位ではなく、公のために活動しなければならない。そう考えて、患者さんに対して点ではなく面で接する、つまり個人プレーから、病院全体を動かしたり開業医さんと連携するなど、組織的に対応する方向に舵を切りました。その結果、より多くの患者さんに手術のチャンスが行き渡るようになりました。