2012年2月、天皇陛下の冠動脈バイパス手術を手がけて注目を集めた天野篤医師。これまでの症例数は約8200例。“ゴッドハンド(神の手)”は健在で、いまも年間約400例の手術で自ら執刀し、成功率は危険性の高い緊急手術も含めて98%を誇る。16年には順天堂医院の院長に就任した。日本一忙しい外科医は、究極の集中力を求められる手術に、いかに臨んでいるのか?

プレッシャーを回避する仕事術

毎日5時半に起床します。PCに向かい、メールチェックや原稿のまとめなどの仕事に加えて、ECサイトでプライベートな買い物をしたり、株価を見たり。

心臓血管外科医 天野 篤氏

日中は私的なことをやる時間がないので、朝にぜんぶ済ませる。その際流すのはTBSラジオです。健康関連の話題が多い生島ヒロシさんの『おはよう一直線』、時事ニュースが参考になる森本毅郎さんの『スタンバイ!』は、私にとって大事な情報源です。

患者さんには経済界の経験豊富な方たちも多いので、時事ニュースは大切です。医者は専門知識だけ詳しければいいと考えるのは間違い。患者さんと深いコミュニケーションを取るには、コモンセンスを身につけていなければなりません。ラジオのほか、新聞2紙やインターネットをざっと見て、同じニュースがどう取り上げられているのかを調べ、自分の頭の中を整理します。

出勤したら、7時半頃に会議が始まります。9時には1例目の手術が始まり、14~17時に2例目まで終了。その後は院長としての仕事に取り掛かるか、3例目を組むこともあります。

手術中の集中力維持に困ったことはありません。私は体さえ言うことを聞いてくれたら、頭はすぐにくっついてくるタイプ。ですから、短時間でいかに疲れを取るかを工夫します。

たとえば仮眠。手術の合間に自分の教授室や医局のソファで短い仮眠を取るのです。行儀が悪いですが、椅子の背もたれを倒して机に足を乗せた姿勢になると、足の位置が高いことと、ふくらはぎが冷えることによって血流が体の中に戻り、寝入りやすくなる。