優秀な上司が陥る“マネジメントの罠”

かつてこんなことがあった。

合併した後に人事交流で旧オカダヤ地域に来た、他の会社出身の人事部長がいた。優れた人物だったが、反発が起こり、人事業務の滞ることがしばしばあった

その人事部長は悩んだ末に、「私のどこがいけないんでしょう?」と、部下である私にその原因を尋ねてきた。

私はこのように答えた。

「あなたの仕事の姿勢については何ら問題がないと思います。ただ、あなたの出す指示書は細かすぎる。相手は店長なのだから、幼稚園児に出すような、事細かく具体的な動作にまで及ぶ指示書は受け付けないと思います。前の地域ではそうであったとしても、この地域では店長は一国一城の主としてある種の“包括委任”で育っています。これを改めない限り、せっかくのあなたの能力も発揮できませんよ」

組織と制度の運用は「人間の問題」

小嶋は常々、「精神や目的・原則は変えないままであっても、相手によっては柔軟に対応していかないと人は動かんわな。規則があれば事足りるというようなことは組織運営においてほとんどない。つまるところ人間対人間の世界だし」ということを言った。

小嶋の人事手法は一見制度主義者に映る面がある。

しかし、最終的には、それを運用する人次第だということをよくわかっている。制度を重要視することはもちろんのことではあるが、その運用については、組織と個人、人と人、人と仕事の組み合わせというように「人」が軸である。

運用者の識見・力量によって、組織運用の効果は大きく変わってくるのだ。

その後、その人事部長は転勤となったが、数年後、再び私と上司部下の関係になった。小嶋は上司である彼と部下である私の二人を称して「細かいO君、粗いT君(東海=私のこと)」と呼び、からかった。

組織と制度の運用の仕方は、つまるところ「人間の問題」なのである。

東海友和(とうかい・ともかず)
東和コンサルティング代表
三重県生まれ。岡田屋(現イオン株式会社)にて人事教育を中心に総務・営業・店舗開発・新規事業・経営監査などを経て、創業者小嶋千鶴子氏の私設美術館の設立にかかわる。美術館の運営責任者として数々の企画展をプロデュース、後に公益財団法人岡田文化財団の事務局長を務める。その後独立して現在、株式会社東和コンサルティングの代表取締役、公益法人・一般企業のマネジメントと人と組織を中心にコンサル活動をしている。
(写真=プレジデント社書籍編集部)
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