またサウジアラビアと米国の関係が悪化すれば、イランを取り巻く国際関係も変化を余儀なくされる。現在の米国の中東政策の幹はイランの封じ込めにあるが、同盟関係にあるサウジアラビアとの関係が悪化すればその見直しを余儀なくされる。イラン情勢の不安定化は、国境を接するトルコにもさまざまな悪影響を及ぼすと警戒される。
アクセルとブレーキを同時に踏むような政策
現状では巧みさが際立つエルドアン外交であるが、一歩間違えればさまざまな問題が噴出する危険性を秘めている。そのため、勢いづくエルドアン大統領であるものの、その賞味期限は長いとは言えない。こうした中で、国内の経済問題に対する対応の稚拙さが再びクローズアップされるだろう。現にその兆候は足元で生じている。
10月23日付の報道によると、エルドアン大統領がトルコ国内の銀行に対して金利を引き下げて国内の投資を支援するように要請した模様である。10月25日にトルコ中銀は政策決定会合を控えており、追加利上げは必至の情勢である。ただエルドアン大統領は、利上げによるコストを市中銀行に負担させようという思惑を持っているようだ。
もっとも、こうしたアクセルとブレーキを同時に踏むような政策は長続きしないばかりか、事態の混乱を生むだけである。中銀の利上げに対する牽制ではないかという思惑も流れる中で、結局、この報道が駆け巡った23日の相場では、持ち直してきたリラが一時1ドル5.9リラ近くまで下落した。
結局のところ、エルドアン大統領は何も変わっていない。風向きの変化をとらえたリラの持ち直しも一時的なものだ。トルコの政治経済情勢が落ち着いたという楽観的な評価を下すには時期尚早であるし、今後も世界経済の下押しリスク要因としてくすぶり続けるとみるべきだろう。
三菱UFJリサーチ&コンサルティング 調査部 研究員
1981年生まれ。2005年一橋大学経済学部、06年同大学院経済学研究科修了。浜銀総合研究所を経て、12年三菱UFJリサーチ&コンサルティング入社。現在、調査部にて欧州経済の分析を担当。