こうした中で、特に頭を悩ませているのが、11月の中間選挙で劣勢が伝えられている米国のトランプ大統領である。いくら重要なパートナーとはいえ、今回サウジアラビア政府の肩を持てば、自らの支持基盤である福音派に対して説明責任を果たすことができず、中間選挙にさらに強い逆風が吹きかねないからである。

トルコの盟友カタールの手引きで、安田純平氏も解放

そのため、当初は慎重な発言に終始していたトランプ大統領も、事件の詳細が明らかになるにつれてサウジアラビア政府に対して批判のトーンを強めるようになってきた。またポンペオ米国務長官は10月23日、事件に関与したサウジ当局関係者に対するビザ取り消しや米国内の資産凍結などの制裁を発動する方針を示した。

トランプ大統領は米国人牧師の長期拘束をめぐってトルコを批判して経済制裁を科したが、他方で友好関係にあるサウジアラビアは記者殺害という非人道的な事件を犯した。とはいえ米国は、友好国であるサウジアラビアに対して、トルコに対する制裁と同様の措置をとることはできない。

こうした米国のダブルスタンダードを透かして見せることで、エルドアン大統領はトランプ大統領に、また中東での覇権をめぐり自らと対立関係にあるサウジアラビアに対しても、それぞれ強いプレッシャーを与えている。追い風を逃さないエルドアン大統領の外交の巧さが目立っている。

またシリアで長期拘束されていた日本人ジャーナリストの安田純平氏がトルコの盟友カタールの手引きで解放されたことも、サウジアラビアにとって不利に働いたと言えよう。サウジアラビアと断交状態にあるカタールがジャーナリストの開放に尽力したことが、サウジアラビアの印象をなおさら悪くするためだ。

サウジに禁輸措置が下れば、トルコは不安定化する

こうした中で米国は、トルコに対して追加の経済制裁などは実施できない。対米関係は好転しなくとも、一段の悪化はないだろう。そうした期待が、10月下旬にかけてのリラの持ち直しに貢献したと考えられる。ただ複雑な要因が絡み合う中で、巧みなエルドアン外交の賞味期限は短いだろう。

旗色が悪いサウジアラビアをトルコが追い詰めた結果、仮に米国が同国産原油に対する禁輸措置に踏み切らざるを得ない事態に転じれば、原油マーケットは急騰を余儀なくされるだろう。原油輸入国であるトルコにとって、リラ安が続く中で原油価格が高騰すれば、それは間違いなく死活問題である。