サウジアラビアの「記者殺害」は、トルコにとって追い風
サウジアラビアの反体制派ジャーナリスト、ジャマル・カショギ氏がトルコのイスタンブールにあるサウジアラビア領事館で殺害された事件が、トルコにとって追い風になっている。
トルコのエルドアン大統領は10月23日に国会で演説を行った際、カショギ氏の殺害がサウジアラビアによる計画的犯行であったとの見方を示した。同時にエルドアン大統領は、既にサウジアラビア政府によって拘束されている18人の関係者の身柄引き渡しを同国政府に対して要求した。
国際ジャーナリスト団体である「国境なき記者団」が10月22日に発表したところによると、2017年6月のムハンマド皇太子就任以来、サウジアラビアでは当局によって拘束されているジャーナリストが倍増している。内外での政治対立が激化する中で、反体制的な動きに対する弾圧が強まっている模様である。
もっとも、サウジアラビア政府による犯行を糾弾するトルコのエルドアン大統領自身も、自らに反対するジャーナリストや野党政治家を弾圧・投獄してきた経緯がある。その意味でサウジアラビア批判に徹するエルドアン大統領の立ち振る舞いは、自らを棚上げしたものと言えなくもない。
なぜ記者殺害事件がトルコリラの上昇につながったのか
他方で金融市場を見ると、この事件の詳細が明らかになる中で、トルコの通貨リラの対ドル相場が緩やかに上昇してきた。例えばリラの対ドルレートは9月末に1ドル6リラ程度であったのが、カショギ氏殺害に対する注目が国際的に集まる中で、10月下旬には一時1ドル5.6リラ台にまで持ち直すことになった。
ではなぜこの事件がトルコリラの上昇につながったのか。最大の理由は、トルコを取り巻く国際関係のパワーバランスが、同国に有利にシフトしたからだと考えられる。
サウジアラビアは中東有数の親米国家であり、米国にとっては重要な地政学上のパートナーである。ただ今回のサウジアラビア政府の行為は、治外法権が認められる領事館での出来事とは言え、欧米社会での価値基準ではまさに蛮行そのものであり、人道主義的な観点からも到底受け入れられるものではない。