岸見の答え:「今後のために改善点を教えてください」と質問

「嫌い」の裏側に、不満が隠れている

たとえ出来が悪い部下でも、成長するよう指導して、何か失敗をしでかしたらその責任を取るのが上司の役目。「嫌い」という感情を出してしまっているのは、マネジメントの基本がわかっていない証拠でしょう。

こうした上司への対処法で大切なのは、感情的にならないこと。嫌われていることで落ち込むとか、逆に自分も腹を立てるとか、そうした負の感情に呑まれてはいけません。「この人は上司の仕事の何たるかがわかってないんだな」と少し突き放して見るぐらいがちょうどいい。

そのうえで、そんな上司ともうまくやっていくためには、上司の要求をきちんと把握する必要がある。というのも、部下を嫌っているような態度を取る裏には、部下に対する何らかの不満が隠されていることが多いから。案外、単にもっと売り上げを上げてもらいたいとか、部署の業績に貢献してもらいたいと思っているだけかもしれません。なんといっても、部下が頑張ってくれたほうが上司もトクですから。自分の部署の業績に貢献する部下なら、多少生意気でもかわいいと思うものです。

部下の仕事ぶりに不満がある場合、まっとうな上司なら、部下のやる気に火をつけるような建設的な言葉がけができるはず。でも、不幸にも感情的な物言いしかできない上司なら、部下のほうから上司の真意を引き出す働きかけが必要です。感情的になっている人は、その自覚がないことがほとんど。「嫌い」という感情を、仕事の文脈に置き換えるのです。これも自分が成長するいい機会。上司のためではなく、自分のためだと思って接してみてください。

たとえば「おまえはどうしてこんなこともできないんだ!」と叱責されたとき、「あー、やっぱり嫌われてるな……」と嘆いたり落ち込んだりして終わらせるのではなく、「今回はすみませんでした。今後のために改善点を教えてください」と切り返してはどうでしょう。「そんなことは自分で考えろ」といわれるかもしれませんが、そこは食い下がっても大丈夫。部下が失敗を繰り返すとしたら、それは上司の管理責任や指導力が問われている証拠。問題は上司にあるわけですから、部下はアドバイスを求めていいのです。

そうした努力をしてもなお、上司が高圧的な態度をやめない場合、いま1度、仕事の目的を思い出すといいでしょう。最優先すべきなのは上司に好かれることでしょうか。違うはずです。上司に好かれ認められることを第一の目的にしてしまうと、とんでもない落とし穴に陥る危険性があります。それは、「上司に疎まれているから仕事ができない。成果を出せないのは上司のせいだ」という発想です。アドラー流にいえば「劣等コンプレックス」。「AができないのはBのせいだ」という言い訳を日常的に多用して、原因を自分以外に転嫁する心理状態のことです。

こうした言い訳めいた気持ちが頭をもたげてきたら要注意。「オレだってその気になれば、こんな部署でくすぶってる人間じゃないんだ。でも上司があれじゃ、やる気も出ないよな」などとうそぶいている人が職場に1人や2人いるのでは。こういう人は、たとえ上司が代わっても、決して頭角を現したりしません。本当にやる気があるなら、つべこべいわずに今出しなさい、という話です。

仮に上司がマネジメント能力のない人であっても、それはあくまで上司の問題であって、部下の問題ではありません。上司の態度を言い訳に仕事上の努力を怠っていると、結局損をするのは自分です。

「上司に恵まれないことをやる気と結び付けない」
佐々木常夫
佐々木マネージメント・リサーチ代表
1944年生まれ。69年、東京大学経済学部卒業後、東レに入社。2001年に同期トップで取締役に。03年、東レ経営研究所社長に就任。10年より現職。
 

岸見一郎
哲学者
1956年生まれ。京都大学大学院文学研究科博士課程満期退学(西洋哲学史専攻)。京都聖カタリナ高校看護専攻科非常勤講師。共著書『嫌われる勇気』は155万部のベストセラーに。
 
(構成=小島和子 撮影=大沢尚芳、森本真哉 写真=iStock.com)
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