なぜ組織には無能な上司が多いのか?

瀕死の部署を再生させた“褒美”が出向とは、なんとも解せない人事ですが、彼の会社と似たようなことは方々で起こっています。そして、その意味不明を“INCOMPETENCE”、すなわち無能というグサッと胸に刺さる言葉で表現し、謎を解き明かしたのが米国の教育学者で社会階層学者のローレンス・J・ピーターです。

ピーター博士は長年“無能研究”に打ち込んできました。そして、膨大な数の症例をもとに確立したのが、「Peter Principle」。訳語では「ピーターの法則」。組織に無能な上司が多い理由を説いた階層社会の原理です。

彼がたどり着いた答えは、「上司が無能なのは人間の原罪でも、社会を攪乱しようという悪しき意図のせいでも、たまたま起こる事故や失敗のせいでもない。元凶は“環境(=制度)”にある」というものでした。

「働く人は仕事で評価されると、一つ上の階層に出世していく。そして、いずれは自分の仕事が評価される限界の階層まで出世する。人間には能力の限界もあれば、出世に伴って仕事の内容が変わりうまく適応できないこともある。例えば商品を販売する能力の高い人が、必ずしも管理職としての能力に長けているわけではないので、そのレベルで無能と化す」

ピーター博士は、仕事の最高の褒美が「ヒエラルキーを上る」ことである限り、“無能化”は避けられないとしたのです。

部署を立て直したことが“裏切り”になる

前出の証言で考えてみましょう。優秀だったモリさんは組織のヒエラルキーを一つひとつ上り、課長まで出世しました。それは上司から「有能な人物」と評された証です。そして、彼は「いずれ淘汰される予定の部署の課長」を任命されました。

もし、モリさんがここで業績を上げることなく「瀕死状態を完全な死」に追いやり、部署を潰してしまえば「有能な課長」として評価されたはずです。

ところが、彼は上(=上司)の期待を見事に裏切りました。業績を向上させて“しまった”のです。

普通に考えれば、瀕死の部署を立て直し、部下を育てたことは有能であり、課長として責任を果たしたことに他なりません。しかし、階層社会ではその有能さが災いします。

「階層社会では、大きな組織の上層部には、立ち枯れた木々のように無能な人々が積み上げられている」(ピーター博士)

そして、「有能な上司は、アウトプットで部下を評価するのに対し、無能レベルに達してしまった上司は、組織の自己都合という尺度で部下を評価する」とピーター博士は喝破しました。