何を考えて、どう仕事に向き合っているかは、言葉の端々から漏れ出てしまう。一流と二流の話し方は、どこが違うのか。「プレジデント」(2017年12月18日号)では、話し方の達人として知られるキヤノン電子の酒巻久社長に、その違いを聞いた――。(後編、全2回)

3:部下からトラブルを報告されたとき
一流の上司ほど怒鳴り散らさない

部下が慌てふためいて「大変です!」と駆け込んできた。大きなトラブルが起きたらしい。

写真=iStock.com/Milatas

こんな部下が一流でないことは明らかだが、そのときの上司の言葉のかけ方も一流と二流で大きく違う。

「そんな話聞いてないぞ!」
「いま忙しいんだよ。何とかしろ」

怒り出したり、部下の話を拒否したりする人は二流以下の上司だ。

「オレは知らなかった、早く言えばオレが何とかできた、と怒るのは自分の不甲斐なさに言い訳をしているだけ。優秀と言われる人が集まる会社でもこういう上司は多い。ふだんから部下の人間性をよく理解し、コミュニケーションがとれていれば、そんな言葉は出ませんし、そもそも降ってわいたようなトラブルも起きないはずです。一流の上司は常に『こんな問題が起きる可能性がある』『問題が起きたときは一緒に考えよう』と部下に声をかけていますから」

それでも突発的にトラブルが起きたら一流の上司はどう対応するのか。

冷静に部下の話に耳を傾け、「こういう考えでやったんだね」と部下の意図を確認したうえで、「ここが失敗だったんだ」とミスの出どころを明示し、「ここの考え方が間違っていたんだ」と指摘する。そして、「この考え方でもう1度やり直してみなさい」と指示するのだ。

「一流の上司は滅多に怒りません。唯一怒るのは、トラブル後の対応で、部下が自分の責任を感じてなく、いい加減さが見えたときです」

トラブルは部下教育の最大のチャンスでもある。反省しているときの教えが一番身に沁み、成長するのだ。

たとえそれが取引先に迷惑をかけた場合でも、一流の上司はピンチをチャンスに変える力を持っている。

「私がキヤノンで設計の総責任者だったとき、アメリカで製品にトラブルが発生し、営業マンから、向こうの代理店の社長が『もう取引停止だ』とカンカンに怒っているとSOSがきました。急いで現地に赴いて謝ると、『わざわざ日本から責任者が来てくれたのか』と逆に感謝され、その後さらにビジネスが拡大しました」

トラブルのときに「一緒に頑張った」という共通の体験が双方のきずなを深め、お互いが出世するとさらに取引が大きくなるという好循環が生まれるという。

二流:何やっているんだ!反省点は?
責任を回避する
事態を把握するためトラブルに至るまでのPDCAを報告させて、責任を回避する。もっと悪いことに「何やっているんだ!」「自分で解決しろ!」と怒り出すことも。部下はおろおろするばかりで、問題は一向に解決しない。


一流:よし、一緒に考えてみようか!
共感して解を探る
ふだんから部下とのコミュニケーションが密なので、状況を聞いただけで問題のポイントがわかる。「一緒に考えてみよう」と部下に安心感を与え、事態の大きさによっては自ら責任者としてトラブル解決の前線に立つ。