経営にはアイデアが必要だ。社長自身が「アイデアマン」であれば、実行までのスピードも早い。だがそれが続くと大変なことになる。経営コンサルタントの小宮一慶さんは「アイデアが豊富な社長は、部下の成長の芽を摘んでしまい、結局会社を潰してしまう」という。リーダーが本来果たすべき役割とは――。

会議でバレる、一流の企業vs三流の企業

私は経営コンサルタントとして社外役員や顧問をしている会社の取締役会や経営会議に定期的に出席します。その際に、社長がずっとしゃべり続けているケースがあります。会議が、社長の「独演会」のようになっていて、他の出席者は黙ってそれを聞いている。そんな光景です。

※写真はイメージです(写真=iStock.com/Rawpixel)

そうした社長はワンマンタイプが多く、ひとりでどんどんアイデアを述べます。表面的には「部下任せにせず陣頭指揮を執って、会社を引っ張っていく」とも受け取れます。しかし経営コンサルタントの大先輩の一倉定先生(5000社超の企業を指導し、多くの倒産寸前の企業を立て直したといわれる)はかつてこう言っていました。

「アイデア社長は会社をつぶす」

これは、社長はアイデアを出すなという意味ではなく、社長の出したアイデアを絶対視しないことが大切だという意味だと私は考えています。

カリスマ経営者のいる会社の共通点のひとつは「社員が何も言わなくなる」ことです。もちろん、部下もアイデアをたくさん持っているものですが、社長に頭から否定されたり、責任を取らされたりするのが嫌なので、それをあえて言わなくなるのです。

社長は、「部下からは何もアイデアが出てこない」と考え、戦力は自分だけだと思いこみ、ますますアイデアを出してきます。このサイクルに陥ると、正常な状態に戻すのは至難の業です。こうしたリーダーの“暴走”は、社長だけでなく、役員や部長でも起こります。

▼部下はイエスマンになり、本気で働かなくなる

経営のセオリーとしては、どんな優れたアイデアであっても、成果をあげていない段階では「仮説」にすぎません。それを絶対視して無条件に予算を投じるような行為は危険です。

ですから、そのような会議の場では、私はやんわりと「仮説を検証することが大切ですね」と話すようにしています。仮説を検証することで、失敗する確率を減らすことができます。また、違う視点でものを見ることで、見落としていたことも見えてきます。社長やリーダーのアイデアを絶対視するとそれができないのです。あとで後悔しても、後の祭りです。

さらにタチの悪いワンマンになると、自分が口にしたアイデアを本人はすぐ忘れているのにもかかわらず、部下はやり続けなければならない悲劇が起こる可能性があります。ある企業では、社長が会議で思いついたアイデアを、部下が念入りに企画書にまとめ上げ、何カ月もかけてプロジェクト化。再度、社長に確認してもらったところ、「そんなつまらない企画を誰がOKと言ったのだ」と言われ、最終段階ですべての苦労は水の泡となったことがありました。このような状況が続くと、部下はやっているふりだけをして、本気で仕事をやらなくなるのです。近い将来、その企業が落ちぶれていくのは目に見えています。