アイデア社長が人を育てられない理由

そもそも、人(部下)はなぜ動くのでしょうか。

※写真はイメージです(写真=iStock.com/OwenPrice)

私は講演会で聴衆にときどき「右手を挙げてください」とお願いします。ほとんどの方は少しいぶかりながらも要求に応えてくれます。すると私は意地悪にも「なぜ、右手を挙げたのですか」と質問します。きょとんとした表情を浮かべた聴衆は「だって、そう言われたから」と答えます。

この珍妙なやり取りを通じて、私が伝えたいことは「権威」についてです。

<私にお願いされたから右手を挙げたと聴衆は思っているが、もし、私が講演会場近くの駅の改札前で同じことをお願いしても、通行人は右手を挙げない。講演会の聴衆は手を挙げたのは、私が「講師」だから。つまり、講師という「肩書」が聴衆の手を挙げさせた>

心理学では、この肩書のことを「権威」と言います。権威で人は動くのです。企業でも大きな肩書を持つ管理職が言うことだから、部下はその指示に従おうとするわけです。しかし、部下が上司をリスペクトしていなければ、ただ指示に従って表面的に動くだけになってしまいます。自らの「権威」を武器に人を動すことを続けていると、いずれ部下は面従腹背になるでしょう。そうなれば、会社の勢いが失われるのは明らかです。

▼会議は部下の思考力と実行力を鍛える場

会議は社長がアイデアを発表する場ではなく、部下の能力を鍛え伸ばす場です。部下に多くのことを考えさせ、それを発言させることが大切です。

以前のこの連載にも書きましたが、私はビジネスパーソンに必要な基本的な能力は「思考力」と「実行力」だと考えています。つまり自分で「考え抜く力」とそれを「やり抜く力」です。

しかし、社長やリーダーが会議で独演会を行えば部下の思考力は伸びません。リーダーの言っていることだけをやっていればいいから、ゼロから考え抜くという作業を怠るようになります。

また、ワンマンの度が過ぎると、何を提言しても無視されたり、いい評価を得られなかったりするので、どんなに能力の高い人であっても、思考することをバカバカしく感じてしまうでしょう。部下の“頭”はどんどん悪くなります。

結局、上から降りてきた案件をただこなすだけになります。自分が心から信じている案件やアイデアではないので、やる気が出るはずもありません。そうなると実行力も衰えていくことになります。

会議の場では、社長やリーダーは自分では分かっていることであっても、部下に発言させ、考えさせることが大切です。そして、部下に当事者意識を持たせて、実行した結果をきちっとチェックする。そうしたトップの務めを果たしていれば、部下の思考力と実行力はしっかり伸びていきます。

(写真=iStock.com)
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