そうです。立ち枯れた“無能な上層部”はモリさんに脅威を感じ、自分たちにはできないことをやってのけた彼に嫉妬したのです。

脅威と嫉妬に包まれた“心”は、ろくなことをしません。「遠くに飛んでもらいましょ」とモリさんを排除し、「でもさ、せっかくだからおいしいところはもらっちゃいましょ。アイツ(モリさん)が事業がイケそうなことを証明してくれたしね」と「課」を「部」に昇格させ、新たな「部長さまの椅子」を増やすことで立ち枯れた木々(=自分たち)の“足下”を肥やした。

組織には「ヒラ文化、課長文化、部長文化、社長文化」があり、それぞれにおいて“当たり前”が存在します。ヒラ文化では上に従順なことは「言ったことしかできない」と批判されますが、課長文化や部長文化ではその従順さこそが評価されるのです。

「組織が滅びる」と脅しても無駄

裁量権が広がれば広がるほど、「上の言う通りにする=有能」とみなされるなんて意味不明ですが、INCOMPETENCEにとって裁量権の行使は「自分たちの掟」への反逆であり、「階層社会を崩壊」させる行為なのです。

立ち枯れた木々はもともと責任感のカケラもない人たちですから、自分のことしか頭にありません。自分が定年まで今のポジションでいられればそれでいい。どんなに「そんなことしてたら組織は滅びるぞ!」と脅したところでムダなのです。

「企業は損失を最小限にするために、もっとも無能な従業員を管理職に昇進させる傾向がある」――。

これは米国の大人気漫画『ディルバート(Dilbert)』の作者であるスコット・アダムズが考えた「ディルバートの法則」です。

アダムズは米IT企業でエンジニアとして働いた経験をもち、スコット・アダムズ・フッズという会社のCEOを経験。ウイットに富んだ文章を書き、1995年に米経済紙ウォール・ストリート・ジャーナルに寄稿した記事でこの法則を紹介し、一世を風靡しました。

「組織の生産性に直接的に関係しているのは組織の下層部で働く人たちで、上層部にいる人たちは生産性にほとんど寄与していない」とアダムズは指摘。とどのつまり無能な人ほど上司に気に入られ、生産性とは関連の薄い上層部に昇進するため、バカな上司に部下たちは苦悩する、と皮肉りました。

ピーターの法則が膨大な実例を元に分析しているのに対し、ディルバートの法則は学術的な根拠が希薄だと批判されましたが、世間からは広い支持を集めました。上司のずる賢さや、理不尽さ、無責任さに辟易している部下たちは、世界各地に点在します。無責任な上司、無能な上司、に国境はなく、職場の意味不明にも国境は存在しないのです。

河合薫(かわい・かおる)
健康社会学者
東京大学大学院医学系研究科博士課程修了。千葉大学教育学部を卒業後、全日本空輪に入社。気象予報士としてテレビ朝日系「ニュースステーション」などに出演。その後、東京大学大学院医学系研究科に進学し、現在に至る。著書に『他人をバカにしたがる男たち』(日経プレミアシリーズ)など。
(写真=iStock.com)
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