「何を言うか」よりも、「どのように言うか」
興味深いのは、「コピーをとらなければいけないので、先にコピーをとらせてもらえませんか」とお願いをしても、93%の人が承諾したことでしょう。人間は理由の内容にかかわらず、理由があると承諾する傾向があるようです。つまり、ただ謝るのではなく、なぜこのような発言になったのか理由を説明するのは効果的な方法です。
そして「何を言うか」よりも肝心なのは、「どのように謝るか」です。「許される謝罪」のステップを踏んでいたとしても、申し訳なさそうに見えないと、相手は許してくれません。「見え方」と「言い方」にも気を配るよう心掛けてください。例えば、目を見開くのではなく、伏し目がちにする。笑顔が見えると反省していないように思われ、アゴを上げて発言すると横柄な印象になります。よどみなく早口で謝罪するよりも、絞り出すように言葉を発する。
くだらない……と思われるかもしれませんが、コミュニケーションの基本は自分が何を言ったかではなく、相手がどう受け止めたかにあります。
日本ではコミュニケーションについて戦略的にふるまうと、「狡猾だ」「あざとい」という言い方をされてしまい、コミュニケーションの技術を軽視する傾向があります。しかしアメリカではどのような表情やしぐさをすればコミュニケーションがうまくいくのか、大学の学問としてエビデンスを積み重ねながら真剣に研究されている分野です。心からの謝罪をするためには、思いが伝わるコミュニケーションの技術を軽視することはできないのです。
コミュニケーション・ストラテジスト
読売新聞経済部記者、電通パブリックリレーションズコンサルタントを経て現職。早稲田大学政経学部政治学科卒、英ケンブリッジ大学院国際関係学修士、元・米マサチューセッツ工科大学比較メディア学客員研究員。近著に『世界一孤独な日本のオジサン』がある。