編集部から「新宿三井ビルのど自慢大会を取材してみないか」と言われた際、人材マネジメントを専攻する者としても音楽好きとしても興味津々で、二つ返事でOKした。行ってみて、本当によかった。そこには、21世紀型の企業コミュニティとも言えるものがあった。

企業と個人の関係は問われ続けている。今後、企業のあり方はますます多様化するし、存在意義も問われる。個人の雇用形態も同じく多様化している。ひとつの企業に定年まで勤めるのは大企業の男性正社員中心だったが、これも変化しつつある。

こののど自慢大会で見た光景は、これらをすべて飲み込んだ企業コミュニティのあり方だった。歌と踊り、応援というものを通じて、組織が、拠点が一体となる姿がそこにはあった。

このような会社員の芸・出し物のようなものは、今は「社畜文化」と揶揄されがちである。筆者も会社員時代(しかも新人時代)は、「なぜ東急ハンズでパーティーグッズを準備して、宴会芸の練習をしなければいけないのか」と疑問だった。

しかしこの日新宿副都心で目にしたのは、「やらされ感」など皆無で、老若男女、雇用形態を超えて一体となる会社員たちの姿だった。新宿三井ビルのど自慢大会のキャッチコピーは「大人が真剣になる瞬間」だ。筆者は仕事以上の熱を感じた。そしてこのイベントを経ることで、仕事にもますます熱が入るだろう。ちなみに、「このイベントへの出演をきっかけに、歌手になるという夢が再燃し、会社をやめてプロの道を目指した方もいらっしゃったようです」(前出・山崎さん)とのことで、仕事以外の目標を見つけた人もいるようだ。

「社畜」という揶揄を乗り越える可能性

そして新宿三井ビルのど自慢大会の盛り上がりからは、「社畜」という揶揄を乗り越える可能性を感じた。「本来の企業活動にもっと力を入れてくれ」と思わずツッコみたくなるほどの熱、一体感がそこにはあった。やらされ感が皆無なのだ。勝って泣き、負けて笑うすがすがしさ、出演者を年齢、性別、雇用形態にかかわらずリスペクトする姿。歌や踊りの持つパワーを借りて、この大会が人と会社、会社と会社をつなげていく。

そもそも、会社とは仕事をする場であると同時、コミュニティでもある。「Company」という言葉にはもともと、ラテン語で「一緒にパンを食べる」という意味が含まれている。

会社を取り巻く環境は変わっている。よくも悪くも株主からは短期的な成果を求められるようになった。コンプライアンスも厳しくなっている。雇用形態も多様化している。それは社会の分断さえも招いている。「働き方改革」の大合唱だが、それすらも息苦しさをもたらしている。

そのなかにあって、この古臭くみえるイベントは、さまざまな層をつなげる貴重な機能を果たしている。

新宿三井ビルディングのど自慢大会、恐ろしい子――そう感じつつ、ビルをあとにしたのだった。ぜひ、来年は皆さんも見に行っていただきたい。21世紀の組織と人の関係のヒントがここにはある!

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