サラリーマンの夏フェスを見に行った
あなたは「新宿三井ビル会社対抗のど自慢大会」を知っているだろうか? 文字通り、新宿三井ビルに入居する企業同士が戦うのど自慢大会だ。毎年8月下旬に開催され、43回目を迎えた今年は、43テナントから98組323人が参加した。
審査は歌唱力(90点満点)、パフォーマンス(10点満点)の合計100点満点で評価される。2日間の予選を勝ち抜いた20組が決勝戦に進出。優勝、準優勝から20位までの順位が決まるほか、パフォーマンス賞や応援賞も用意されている。「ペア宿泊券」や「ロボット掃除機」といった豪華な賞品もある。商品はすべて、新宿三井ビルに入居する企業の協賛だ。
大会が行われる広場には、3日間でおおよそ800人が集まる。その熱さは数年前からSNSでも話題になっていて、サラリーマン文化の象徴として気になる存在だった。
今年、ついに現地に行くことができた。それは、硬い頭に釘を打ち込まれたような体験だった。新宿三井ビルに勤務しているサラリーマンたちが、老若男女、新卒・中途、正規・非正規の枠を超えてステージ上で歌い、踊る。職場の同僚たちは、拳を振り上げて応援する。勝って泣き、負けて笑う。新宿三井ビルとはまったく関係ない観客も相当いるはずだ。そんな外野も声援をおくり、盛り上がる……。これはサラリーマンの夏フェスである。
なぜ、このイベントはそこまで盛り上がるのか。筆者は元会社員の大学教員である。「新宿三井ビル会社対抗のど自慢大会」のあり方を通じて、現代のサラリーマン文化と働き方について考察してみたい。
圧倒的な非日常感 サラリーマン文化の見取り図
8月25日(金)。決勝大会が行われるこの日、筆者は担当編集者を連れて17時に会場に到着した。開始時刻の1時間前だったが、すでに場所取りをする観客がいた。蒸し暑さが、さらに強まるかのような熱気だった。どうにか座る場所を確保することができたが、あと少し遅れれば、立ち見になるところだった。
会場には、スーツ姿のいかにもサラリーマン風の者もいれば、制服を着た高校生の姿もあった。声をかけてみると、「父の会社が出演するので来ました」とのことだった。別にお父様本人が出演するわけではないらしい。イベントの広がりを感じる瞬間だった。
18時になり、イベントが始まる。ステージに現れた司会者が、私の会社員時代の古巣であるリクルートグループの先輩で驚いた。サラリーマンからMC業に転じたタキシード山下さんだ。以前筆者が同グループで販売促進関連の仕事をしていた際に、MCの仕事を何度かお願いしたことがある。まさにサラリーマンの祭典にふさわしい人選だ。