背伸びをした言葉はすぐに見破られる

どんな情報があれば経営判断を下せるか、ということは一概には言えません。しかし、当事者であれば要点はわかるはず。それが整理できていないのであれば、事案自体に問題があるのではないかと思います。また、そのような事案では担当者の情熱にも迷いが見えるものです。

不思議なもので、そうした資料は、正対したときにストンと腹落ちしてきません。時には判断に迷うこともありますが、自然体で真正面から下した判断であれば、どのような結果になっても狼狽することはないはずです。表現を変えれば、どんな経営者でも、自身の見識とキャパシティを超えた判断はできませんし、してはならないと思っています。その点において、三菱商事では大変鍛えられました。

現在の私の礎となったのは、入社時に配属された畜産部のビーフチームの仕事でした。三菱商事は豪州の牧場で牛肉を生産していましたが、91年の牛肉の輸入自由化で収益が悪化。事業の撤退が決まりました。ところがその時点ではまだ1年分の肉牛が牧場に残っていたのです。入社3年目だった私は、牛肉の営業マンとして系列会社へ出向を命じられました。

入社3年目に出向した同期はいませんでした。仲間たちがNYやロンドンへの出張を自慢するなかで、私は飛び込み営業に明け暮れました。『スーパーマーケット年鑑』の「あ」行から順番に電話をかけて、北海道から沖縄まで行脚しました。週末には店頭での試食販売のため、ロゴ入りの赤いマイエプロンをかけ、妻が手作りしたレシピ集を配りました。

私は牛肉の在庫を売るのに必死でしたが、次第にスーパーの担当者から「竹増さん、今度は豚肉を売ってよ」と声をかけてもらえるようになりました。社内からも「この商品をスーパーに売りたいんだけど」と相談を持ちかけられ、1年後には上司に本社へ呼び戻されました。商売の現場を一心不乱に走り回っていた私の背中を見てくれていたのだと感激したのを覚えています。

仕事をやりきる努力と情熱があれば、見た目は拙い資料であっても、必ず真意は伝わるはずですし、目の前の仕事に真剣に取り組めば、お天道様がその背中を見てくれているものだと思います。

ローソン社長 竹増貞信
1969年、大阪府生まれ。93年大阪大学経済学部卒業、三菱商事入社。畜産部に配属され、牛肉や豚肉を扱う。広報部、社長業務秘書を歴任。2014年ローソン副社長。16年6月より社長COO。
(構成=山田清機 撮影=門間新弥)
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