「現在のミドルマネジメントの中心はバブル期に大量採用された世代。彼らは入社以来、コスト削減、効率化、事業の整理といったネガティブな仕事ばかりで、ポジティブに事業をつくった経験が乏しい。しかも10年ほど部下が入ってこなかったため、まともなマネジメントの教育も受けていない。かつての日本の大企業は年功序列の総中流主義で、マネジメント能力の有無にかかわらず30代後半で全員課長になり、そこから上には上がれず、大量の課長が滞留している。管理職が4割もいる大企業もある。ミドルマネジメントは今、ありあまっています」
多数の大手企業に人材開発コンサルティングを行うセルムの加島禎二代表はそう話す。
日本特有の人事制度が能力の低い管理職を大量につくり、不幸な若手社員を大量につくっている痛い現状。その反省から、企業はその次の世代の経営者候補を早期育成しなければならないと実感し、今、多くの企業が真剣にサクセッションプラン(後継者育成計画)を導入しているのだ。
その1つが、中核人材を最短で育成するファストトラックである。日本ではソフトバンクグループや日産自動車などが実施している。
有望な人材を早期から選抜し、後継者候補として育成する。最短で昇格させ、経営者に必要なさまざまな経験を積ませていく。横並びではなく、完全な特別扱い。“エリートコース”に乗せて育成するのだ。
「ある日本を代表するメーカーが採用しているタレントファストトラックは最年少40歳の役員をつくることを目標にしています。通常の昇進スピードでは、課長35歳、部長45歳、役員は55歳が目安ですが、ファストトラックは課長30歳、部長35歳、役員40歳。ここに入れるのは対象者の1%未満。本人が手を挙げ、各種ペーパーテスト・ケースシミュレーション・ロールプレイ・役員面接などをクリアすればトラックに入れる」(加島氏)
なるほど、これは優秀な人材を確保するための人事戦略でもあろう。