知識だけではなくトップにふさわしい判断軸をつくる

ANAグループは近年、サクセッションプランに本腰を入れ、新しい制度を次々と導入している。その背景には同社が近年進めるM&Aによる事業拡大と、グローバル化がある。

2014年、羽田発着枠を大幅に獲得して旅客キロと呼ばれる航空指標で初めてJALを追い抜き、先日はスカイマーク争奪戦に勝利して勢いに乗る。傘下LCCのピーチ、バニラ・エアも好調。

さらなる路線拡大と海外M&Aも視野に入れてグローバル展開を進めているが、主導できるリーダー人材が不足しているという。

ANAはサクセッションプランの一環として、8年前に「ANA人財大学」を設置した。ANA本体の選抜された課長と部長向けに8年前から、それ以外のANAのグループ会社の課長、部長向けに4年前から研修を行っている。掲げる目的は「国際教養を持った人財の育成」。その内容の特徴は、マネジメントなど実務的なものと共に、哲学、宗教、教養など、リベラルアーツを中心に組み立てていることにある。

「受講者は役員候補であり、ANAグループ30数社の経営者候補でもある。これからのANAのリーダーですから、自分で状況を把握し、自分で判断して事業を動かしていかねばならない。そのためには知識だけを教えても意味がない。ANAグループのトップとしてふさわしい判断軸をつくるために、教養をもう一度見直すべきと考えた」と國分裕之ANA人財大学学長・執行役員人事部長は説明する。


ANA リベラルアーツ教育の教材例

選抜型の研修は1~2カ月に1回程度、主に土曜日に開催され、海外スタッフとの英語による合同セッションのほか、課題図書や課題映画から学ぶ研修もある。内容は『自由からの逃走』(エーリッヒ・フロム著)、『孔子』(井上靖著)、『代表的日本人』(内村鑑三著)、『武士道』(新渡戸稲造著)、映画では『生きる』(黒澤明監督)、『ゴッドファーザー』(フランシス・フォード・コッポラ監督)など。日本一の航空会社の幹部が、ドン・コルレオーネからリーダーシップを学ぶというのはなかなかユニークだ。