サクセッションプランとして非常に興味深いのは、修了後の人事である。

「研修修了後には必ず実践の機会を与えます。例えば、従来はANA本体の役員を経験した者が就任することが多かったグループ会社の社長ポストに、卒業生の若手を送り込むといったことです。これまで研修と人事は別のものでしたが、人財大学と実際の人事を連動させることで、真の経営者人材を育てています」(國分氏)というのだ。

同時に若手から早期育成で人材を育てる仕組みも導入している。かつては海外赴任は一部に限られていたが、3年前から総合職事務職の新入社員に対して、「入社10年以内に全員海外赴任を経験させる」と宣言。赴任先は世界各地。約1年の海外実務経験で、多様なグローバル経験と感覚を持った若手が増えていく。

役職別に、海外スタッフも交えて定期的に研修が行われている

ダイバーシティの積極的な取り入れも人材教育と連携している。ANAの今年の新卒総合職事務職の男女比は6:4で、そのうち約1割が外国籍。留学生だけでなく、海外でも採用を行っており、日本に住んだことがない外国人も入社する。ANAは障がい者雇用にも力を入れており、グループの障がい者比率は2%を超えている。

「一番近い同期のなかにダイバーシティの構造をつくれば、それが当たり前になる。その風土をつくることがグローバル企業への道」と國分氏は言う。

若手社員にとって最初のセレクションは、マネジャーへのチャレンジだ。

「管理職昇格試験の受験資格はTOEIC700点以上と、会計、労働法、リベラルアーツ、宗教など12科目を通信教育かオープンセミナーで修了していることが必要」(同)と厳しい条件だが、この設定により従来の35歳以上だった条件が緩和され、早期のチャレンジが可能になった。

さらに2015年、マネジメントvsプレーイングの構造を変えるべく、専任プレーヤーの道を用意するという。

「マネジャーへの昇格ではなく、専門性を突き詰めたい人が評価される道筋がありませんでした。例えば空港のオペレーション、運賃の設定といった、ANAの航空事業の根幹に関わる重要な任務で高いスキルを持ったスタッフは、マネジャーよりもプレーヤーのスペシャリストとして活躍してくれたほうが会社にもプラスになる。その道を選ぶ選択肢があるべきですし、もっと高く評価されるべきなのです。そこで今、スペシャリストのための主任管理職というポジションを新たに設計しています」(同)

完全特別扱いのファストトラックを設定し、競争心理を働かせて徹底したマネジメント教育でエリート経営者を育成する日本の大企業。一方、グローバルとダイバーシティの風土を社内につくり、国際教養を高めるリベラルアーツ教育と実践人事で、世界展開を率いる“人財”を育成するANA。ぜひ歴史に残る強い経営者を育てていただきたい。

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