日本で現存する1000年以上続く企業は21社。“超”長寿企業の特徴とは一体は何なのか――。創業717年の兵庫・城崎温泉、旅館「古まん」を訪ねた。

日本に長寿企業が多い、最大の理由とは?

「日本には1000年以上続く会社が21社、100年以上続く長寿企業が2万5321社(2014年現在)あります。100年企業の数は世界でもダントツで、世界の35%超を占める。日本の長寿企業の9割以上はファミリービジネスで、創業家が始めて何代、何十代と名代を継いでいるような会社が長生きしています」。長寿企業の研究を行っている日本経済大学大学院の後藤俊夫特任教授はこう話す。

表が世界の長寿企業ランキングだ。最も古いとされるのは578年創業の建設会社、金剛組。593年建立の四天王寺(大阪)をはじめ、1440年にわたり寺社仏閣の建築を行っている。ただし06年に経営難により創業家の金剛一族の手から離れ、現在は高松建設の傘下になった。その他の1000年企業には華道家元、旅館が並び、さらには製紙、鋳造、仏具、刃物などが続いている。

1000年企業のうちの1社、「古まん」は兵庫県城崎にある温泉旅館。現在の22代目当主、日生下(ひうけ)民夫氏の祖先である日生下権守が「曼荼羅湯」を開湯した717年を創業年とし、1300年以上の歴史を持つ。その後、城崎温泉は関西有数の温泉街となり、現在7つの外湯と74軒の旅館・ホテルが並ぶ。

「古まん」が1000年続いた理由について、後藤教授はこう分析する。

「もともと温泉旅館には湯元を独占できるという強みがあります。ブランド力を持った湯元の権利を持った企業はお湯が枯れない限り、経営を維持できます」

1000年以上続く企業の多くは温泉&旅館業が上位を占める。

城崎温泉は平安時代から公家が湯治に来た記録があり、江戸時代中期に訪れた医師、香川修徳が「海内第一泉(日本一の温泉であるという意味)」と賞賛し、全国に知れ渡った。志賀直哉が療養生活を送ったことでも有名になり、怪我や傷の治療効果が高いと湯治客が訪れた。日露戦争や第一次世界大戦では温泉が軍の管轄となり、傷病兵が多く湯治に訪れたという。さらに、1925年の北但馬地震で城崎の街は全焼したが、焼け野原にも温泉は湧いていたため、城崎温泉の宿は力を合わせてこの危機を克服。1年後にはほとんどの宿が事業を再開したそうだ。

「古まん」の日生下氏は先代から言われた“博打とゴルフはするな”との教えを守り続けている。「もちろんゴルフが悪いわけではありませんが、おもてなしをする立場のわれわれが、遊びに夢中になるなという戒めだったのでしょう」と振り返る。また、「古まん」をはじめ、城崎の温泉宿の多くが、一子相伝。日生下氏には弟がいるが、家業とは違う道に進んだ。家族経営で社員を増やし、事業拡大をしないことが、温泉組合の不文律となっている。