ファストトラックでは、戦略立案、財務分析等の経営学の研修を行い、未来の経営者になるためのメンタルとスキルの両面を醸成させる。帝王学のように徹底して育成するのだ。
さらに、OJTと中間審査を兼ねた人事も行う。課長、部長、役員への3段階の昇格に合わせ、海外プロジェクトへの赴任や、新規事業の立ち上げといった、特別なミッションを課す。成果を出せば昇格、出せなければファストトラックからアウト。ただし一度トラックを外れても、オーディナリー(一般)トラックで次のステップまでくれば、再びセレクションを受けて復活することも可能だ。後から頭角を現した社員が途中参加することもある。インとアウトの道を開いておき、競争心理を働かせ、社員のモチベーションを高めるのだ。
マネジメントのスペシャリストを育成するファストトラックと同時に導入するといいのが、プレーヤーのスペシャリストへの道筋だ。日本企業では若いときは全員がプレーヤーで、ある職能資格を得るとプレーヤーを“卒業”し、全員がマネジャーになる。だがこれは部下にとってだけでなく、マネジャーにとっても不幸なシステムだ。現場を離れてプレーヤーとしての能力と感覚を徐々に失ってしまうからだ。
「マネジメントvsプレーイングの構造を取り払うこと。全社員はプレーヤーとして能力と価値を伸ばし続けるべきであり、そのなかでマネジメントの適性が高い人が、途中からマネジャー“も”やり、その先にスペシャリストの道に進む。プレーヤーを志向した人は、専門性をとことん磨き、スーパープレーヤーになる。会社は双方の能力と成果を、高く評価するべきです。あるアメリカ系IT企業は10年かけて変革を行い、現在はマネジャーがプレーヤーより上位であるという文化はありません。外資系企業、特にサービス系の企業では当たり前のことであり、マネジャーよりも給料の高いプレーヤーがたくさんいます」(同)
一流のマネジャーと一流のプレーヤーがお互いを尊重しあい、両輪として走って初めて、企業は成長していくのである。