組織の活性化は心の活性化から

人事の停滞とは時間の長さで決まるものではない。それは指導者の質による。人によっては1年で停滞状況を作り、人によっては10年いてもまったく停滞の弊害が生じない。時間の長さによる十把ひとからげの人事異動制度は、拙劣である。組織は人が替わるか替わらないかで生き死にするものではない。どんな人がいるかが問題である。

人事異動を活発に行えば組織が活性化する。これも半分間違い。大きい会社の中には2、3年に1度異動する仕組みのところがあるが、管理者が替わったからといって硬くなった組織が若返ったという話は聞かない。

支店などの長のポストを短いサイクルで替えていた大企業が、「替えない」方針を打ち出した。以前なら、店長は新しい店に赴任しても「どうせ2年で替わるのだから」と社員に当たらず障らずに接した。社員の質が悪くて業績が低いと「今回ははずれた。我慢、我慢」とつぶやき、その逆だと「いい所へ来た」と喜んだ。

このことの1つの弊害は、店長が社員と遊離しているため、社員のモラルは低下し、社員が育たない点である。店長は無責任になり、社員も投げやりになる。プロ野球では「今期限り」と決まっている監督の言うことを選手は聞かないという。社長は「替える」メリットよりも「替えない」メリットのほうが大きいのではないかと考えた。

その部署で昇格していく。となるとその部署でいい仕事をしなければならない。それには部下を育てねばならない。部下はその場から動かない労働者で、自分は渡り鳥のエリートという認識を捨てねばならない。部下に肉迫していかなければならない。この大企業はこれを狙って、長年の人事異動のルールを破棄して「替えない」方針を打ち出したのである。

組織の活性化は人の入れ替えによるのではなく、本来は一人ひとりの人の心の活性化、すなわち広義の教育によって成し遂げるべきである。これでもか、これでもかと刺激を与える。叩く。それでも人の心が躍動しないなら、最後に人事異動という手段に頼るのだろう。

人材の少ない中小企業で、組織活性化という目的のために人事異動という手段をとるのは危険である。社員のネームプレートをあっちこっち動かしている社長は、さしずめ将棋指しの心境だろう。それぞれの駒の性格を知って最強の手を選んでいくならいいが、後ろに下がれない香車に背後の守りを命じたり、歩に角のように飛べと要求する。こうして活性化という目的は達せられず、逆に組織崩壊という結果を招く。

※本連載は書籍『ザ・鬼上司! 【ストーリーで読む】上司が「鬼」とならねば部下は動かず』(染谷和巳 著)からの抜粋です。

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