人事の停滞と「組織の硬直化」は無関係
社歴15年、70人の社員を擁するようになったある会社。社長が「人事異動を大胆かつスピーディーに行う」と発表した。人事の停滞によって人の心が緩んでいる。小さい会社なのに派閥のようなものができつつある。10年以上1度も動いていない管理者が多い。社長は「組織の硬直化」を恐れた。
まずは、1番動かしたかった3人に異動命令を出した。2人は従った。1人は辞表を出してきた。実は、社長はこの1人をどうしても動かしたかった。取締役技術部長、49歳。新製品の大半はこの部長の技術に負うところが大きい。10年前から部長職で、技術部は20人と小世帯ながら、部長のもとによくまとまっていた。社長には、70人の社員の中でそこだけが20人の異質の固まりのように見えた。そこで、部長に大阪の営業所長を2、3年させようと思った。ところが辞表が出た。
人事異動推進の通達を出したばかりなので、社長も引っ込みがつかない。受理せざるを得なかった。あとの2人もうまくいかなかった。1人は技術課長として、1人は北陸営業所長としてだが、どちらも部下を掌握できず、技術課長は円形脱毛症になって辞表を持ってきた。北陸営業所は1年で閉鎖となり、所長は本社営業部に復帰した。技術部長が辞めてから、社長は人事異動の発令をやめてしまったという。
この人事の失敗の原因はどこにあるか。大きい会社のように職務分掌規程が整っていて、権限の範囲が明確になっているなら、管理者の異動は比較的スムーズにいく。部下は上司が変わっても「今度はうるさいのがきた。3年間、我慢しよう」くらいで気にしない。割り切った対応ができる。
中小企業では管理者の裁量範囲は広い。ここでは管理者の人間性が重要な役割を果たしている。部門はその管理者の色に染まっている。その管理者を外して他を持ってくれば、部門はいきなり他人の首が載ったようでなじめない。その人が前任者より優れていれば、いずれうまくいくこともあるが、劣っていたり横並びの場合、他人の首からの血は胴体が受けつけない。これが失敗の原因の1つである。
もう1つの原因は社長の考え方にある。
人事の停滞は組織の硬直化をもたらす、という説は半分事実だが半分間違っている。ポストの長が1カ所に5年、10年いると人心が倦む。活力が失われる。セクショナリズムが強くなる。ときには業者との癒着が問題になる。
こうした現象はよく見られるが、この原因を在任期間に求めるのは無理がある。なぜなら1人の長が20年1つのポストにいても、その部門は活気があり生産を上げ、会社に貢献しているというケースが数多くあるからである。