業界の問題点は夏場依存
宮城県内で30店舗を運営するウジエスーパー。ピンク缶発売週にはアサヒのビール類売り上げを前年比16.5%アップさせた。中里店を覗いてみると、その一角は花火一色で、アサヒの商品がド派手に陳列されている。バイヤーの後藤貴章氏はこう語る。「花火企画も売り場をつくりやすい。東北の夏は短いながらもイベントが目白押し。効果的にアピールできる商品は大歓迎です」。
さらに、今後の展開も準備済みだ。春の桜に続き、秋は紅葉をあしらった期間限定のスペシャル缶が登場する。これだけコト消費にこだわるのは、夏場の売り上げに依存しない体制を構築しようとする小路社長の考えがある。増収を目指していても、猛暑や冷夏に左右されるようでは、目標達成は困難だからだ。イベントのワクワク感を刺激し、四季を通じた売り上げ確保を目指すのだ。
力を入れるのは外見だけではない。誕生以来、中身を変えずにきたスーパードライだが、昨年12月、その中身を「進化」させた。発酵に用いる酵母を厳選、仕込み技術を改良して、出荷後の味の変化を抑える。
「飲み慣れてしまうと、その味をおいしく感じてくる。本当はビールを飲みたいと思っていても、より安価なものを飲むという状況が続くと、怖い」。そう語るのはマーケティング本部の松葉晴彦次長だ。発泡酒や新ジャンルも改良が進み、味もよくなった。何も手を打たなければ、ブランドの鮮度は落ち、忘れ去られる危険性もある。
「でも、一度飲んでおいしいと思えば人はそのことを忘れません。『進化』したスーパードライを飲んでもらうことで、やっぱりビールがうまいと感じてもらうことが重要です」
アサヒビールは異論を挟む余地のないトップシェアカンパニーだ。小路社長は、他のビールメーカーの動向ではなく、他業種に目を光らせる。
「トヨタもピンクのクラウンを出していたりする。ビール業界だけを見ていたら、斬新な切り口に気付かぬまま、他社より少しいいものを出せばいいという発想になってしまう。それでは私たちに課せられた責務は果たせません。ビール類の消費がシュリンクしていく状況で、私は業界を牽引するのではなく、業界全体を活性化させたいのです」