その成長の成否を握るのが、ビール、発泡酒、そして新ジャンルで安定したブランドを持つこと。「スーパードライ」は昨年1億2530万ケースを販売し、ビールシェア50%を超えた。昨年、売り上げで発泡酒を逆転した新ジャンルでは「クリアアサヒ」の通年2000万ケースを狙う。問題は、発泡酒で基幹ブランドを育てられるかだ。
マーケティング本部で、池田に付き従うように組織を動かしているのが、商品開発第一部エグゼクティブプロデューサーの東海辰弥である。かつてアサヒビールのアメリカンフットボールチーム「シルバースター」の名クオーターバックとして活躍した東海はいま、開発チームの指揮官として部内全体に目を配る。
「いまビール系飲料のヘビーユーザーが好む味は、コアの部分に『スーパードライ』『淡麗〈生〉』『のどごし〈生〉』がきます。ここからぶれてはいけない。ですから、『スーパードライ』はさらに磨き、『のどごし〈生〉』に『クリアアサヒ』を肉薄させる。あえて自社製品との競合も恐れず、市場が求める味を投入できる体制ができたということです」
こう明快に述べる東海は、10人のブランドマネジャーとともに、商品開発のマネジメントサイクルを回していく。このやり方が、本部長の池田も発売前から自信を持っていたという「クリアアサヒ」の開発で功を奏することになる。
量販店やコンビニの陳列棚を眺めれば、「クリアアサヒ」のパッケージはビールなどと比べても、決して見劣りしない存在感がある。これは、池田が求めた消費者が思わず手にとってしまうパッケージというコンセプトを具現化したものだ。
そこで、パッケージの決定にあたっては、2人のブランドマネジャーに競わせるという方法をとった。つまり、アサヒとしてはコンペ方式を初めて採用したのだ。そして、最終選択は消費者に任せたのだという。店頭で購買を意思決定するのは彼らだからである。その現場を東海は見事に切り回した。そのコツを、彼は「アメフトと一緒で適材適所ですね」と笑う。
ここにも徹底した顧客視点が生かされている。その徹底が、麦系の新ジャンルというカテゴリーでのナンバーワンに結実した。当時は大豆やエンドウ豆を使った“豆の新ジャンル”が主流だったが、麦原料をベースにした新ジャンルがなかったわけではない。けれども、この「クリアアサヒ」については、営業部門の力の入れようも、これまでとは全然違っていた。