「『自分たちの故郷を見てください』と言ってくるわけです。実際に行くと、『ここに会社をつくるんです』『この貧しい農村を豊かにするんです』と熱く語るわけですね」

母国のために何かしたいという思いに突き動かされた留学生たちの熱気に気圧されるように、ゼミで接した日本人学生がやる気を見せ、そのうち神田氏自身にも心境の変化が。

「国や社会のため、という意識を強く持つようになり、そこで自然と稲盛さんの姿を意識するようになった」

ベトナム本国で多数売れた翻訳版を稲盛氏に直接届けようとしたのが約10年前。それが初対面だった。挨拶して10分程度で帰るつもりが、面会は1時間半に及んだ。

「こう言うと失礼だけど、ご高齢なのに稲盛さんはベトナムの青年と同様の大変な情熱の持ち主。それが第一印象でした。とにかく今の世の中を何とかしなきゃいかんと、すごくエネルギッシュ。世のため人のためになることを行うのに生きがいを感じていることが伝わってきました。鹿児島大にもすごく情熱を持っていて、そのご本人から直接、『アカデミーをつくるから協力してくれないか』と言われたら、もう二つ返事で」

と笑う神田氏。定年まで2年あったが、早期退職して新設される稲盛アカデミーの特任教授になった。

「嬉しかったですよ。日本の歴史を振り返るとき、稲盛さんは渋沢栄一、大原孫三郎といった人たちと肩を並べる、100年経っても語り継がれる人物だと思いますから」

近年は大学や高等学校で職業教育やキャリア教育の重要性が叫ばれる。だが、人間形成と働くことの因果関係を問う教育はおろそかにされたままだ。稲盛アカデミーが実践しているのは、まさにそれである。